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消費者が語ってくれない「真実の95%」:「真実のココロ」を引き出すための調査手法

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皆さん、こんにちは! インフォバーンKYOTOの井登です。

前回のコラムからしばらく時間が経ってしまい、もうすっかり秋を通り越して冬になってしまいましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

年の瀬も目前に控え、お仕事に加えていろいろなイベントも目白押しの時期の慌ただしい時期になってきましたね。

ここはひとつ、周囲の浮わつきムードに流されず、心穏やかに落ち着いて、修行僧のような気持ちで毎日を過ごしたい、と思いつつ、なかなか心と脳みそは上手にシンクロしてくれないもんですねぇ。

そこがぼくの悪いクセ。ものの見事に浮足だっております(苦笑)。この際、せめてウキウキした気分で年の瀬を乗り切ってまいりましょう。

 

「真実の95%」を知るための調査手法とは?

さて、前回のコラムでは、消費者が語ってくれない「真実の95%」について書かせていただきました。

■消費者が語ってくれない「真実の95%」:ユーザー中心発想でコンテンツマーケティングを成功に導くヒケツ
https://www.infobahn.co.jp/ib_column/2876

ユーザーは自身が本当に欲していること、やりたいことを正しく語ることができるプロではないので、彼ら・彼女らからニーズを聞き出そうと思ったところで、マーケターやリサーチャーにとって都合がいいように“明確なコトバ”で話してもらえるわけではない。

逆に言えばユーザーが語ってくれるコトバの通りに受け取るだけでは十分なニーズ理解やインサイトにはなり得ないし、彼らのコトバの水面下の部分にこそ本質的な「真実」が隠されているかもよ? というお話でしたね。

 

では、その「真実の95%」はどうやって理解すればいいのでしょう?

これらを知るためには、一般的なマーケティングリサーチで広く用いられているアンケートなどの定量的な調査手法では十分でないことは、これまでコラムをお読みいただいている聡明な読者の皆さんにとってはおわかりのことだと思います。

定量的な調査は主に、何らかの情報や前提に基づいて立てられた“仮説”の正否を、量的なデータによって“裏付ける”ために用いられることで、その価値を発揮します。

ですので、本テーマのように「現状つかめていない」、「今はないけれど、本当は欲しているであろう」ユーザーの本質的なニーズを“発見”するためには、向いていないんですね。

このような“発見”のための調査には、定量調査とは真逆のアプローチである「定性的調査手法」を活用することで、ヒントが得られる可能性が最大化します。

定量的調査が文字通り“量を知る”ための調査手法だとしたら、定性的調査は、“質を知る”ための調査手法と言えます。

 

“質を知る”ための定性的調査手法には、本当にたくさんの手法が存在します。

例えば、

 

  1. 観察法(Observational Research)
  2. デプスインタビュー(Depth Interview)
  3. コンテクスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry)
  4. セルフドキュメンタリー(Self Documentary)
  5. カードソーティング(Card Sorting)
  6. コラージュ法(Collage Method)
  7. 文章完成法(Sentence Completion Test=SCT)
  8. 物語法(Story Telling Method)
  9. ライフヒストリー(Life History Method)

 

などなど、“知る”ことの目的や“知り方”によってさまざまな手法があります。

余談として、これらはすべて本来は“現場でヒトが行う”リアルな調査手法でしたが、いくつかの手法はテクノロジーの進化に伴い、今ではWebを活用してオンラインでより簡易に多くの被験者に対して行えるようになってきているものもあり、以前よりも実施のハードルが下がってきています。

例えば、5.のカードソーティングなどは、もともとはWebサイトにおける情報設計(IA)を模索する際に、被験者であるユーザーにいろいろな要素(ex.「企業案内」「沿革」「製品情報」「産業機械」「CAD図面ダウンロード」など)を書いた単語カードを見てもらい、ユーザーの感覚で関連性の高いグループに分類(ソート)し直してもらうことで、“ユーザー自身の立場”で理解されやすい情報のカテゴライズやラベリング(文言の表現)などを発見するという技法です。

今では「UserZoom」など、これらのプロセスをWeb上で完結できてしまう様々なツールが開発され、Webにおける情報設計の現場では頻繁に利用されています。

これまでは被験者をリサーチルームに集めたり、被験者のご自宅に伺って調査を行うしか方法がありませんでしたが、便利な世の中になったものです。

これらのさまざまな調査手法の中でも、インサイトプロセスで特に重要なものとして、

 

  1. 観察法
  2. デプスインタビュー

 

の2つをあげたいと思います。

なぜかと言うと、これら2つの手法には被験者を“広く深く観る”という要素や、被験者の言葉や行動の“意味を推察する”など、他のさまざまな手法の共通要素がメソッドのベースにあるからです。

 

“ただ観る”ことの難しさ

「観察」なんて聞くと多くの人は「なーんだ、観察ってただ観るだけじゃないの? そんなの誰でもできるでしょ!」って思われるかもしれません。

この意見はある意味正解ですが、果たして“ただ観る”ことって、本当に簡単なことでしょうか?

観察で最も重要なことはたったひとつ、無垢な子どもたちのように“先入観を取り払って、ただ観る”ということです。

幼い子どもたちにとっては、生まれて初めて見る景色や、触るモノ、感じる味覚など、初めての体験がたくさんあって、そういう“初めて”に接する時、新鮮でピュアな感動と驚きを経験します。

ただ、人は成長に伴いさまざまな経験を積むにつれて、ある物事を見た時に「それが何なのか?」を判断する“自分自身のものさし”ができてきてしまいます。

つまり、ある物事を初めて経験した時と同じ感動や驚きを感じることができづらくなってくるんですね。

子どものころに初めて連れて行ってもらった遊園地、初めて食べたお菓子の味、初めてもらったパースデイプレゼントの喜び…

そういった“初めての感覚”は、経験を重ねるごとに慣れや先入観という“判断のフィルタ”を通してしか見ることができなくなっていきます。

意識していなくても、です。

だから、いつまでも“先入観を捨てて、ただ観る”ためのトレーニングが必要なのです。

こういった視点での観察によって、言葉では語れないが行動に表れている暗黙知化しているニーズなど、共通する重要なパターンを発見することができます。

この図のように、経験を積むにつれ、ついつい細部にばかり目が向きがちな状況のなかで、子どもの心で「大きな絵=ビッグビジョン」を捉え、発見することがイノベーションの入り口に立つこと、と言えるのではないでしょうか?

 

observation

 

事件は現場で起きている?

デプスインタビューは比較的良く知られた手法だと思います。

被験者とリアルに対面で深い質問を行うインタビューですが、この手法で重要なことは2つ。

 

  1. 向き合うテーマの“現場”でインタビューを行うこと
  2. オープンエンドな質問で深く聞くこと

 

です。

1つめの“現場”では、例えばテーマが「キッチン製品の開発」であれば、当然インタビュイーのご自宅でキッチンが見える場所で、となりますし、テーマが「工場で使われる品質検査機器のサービス改善」であれば顧客企業の工場およびオフィスなどになります。

なぜ“現場”にこだわる必要があるかと言うと、以前にも触れましたがユーザーは言葉でニーズを明快に語るプロではない、からです。

なので、現場で実際にユーザーがとっている行動や、そこにある環境要因など、非言語な情報をインタビューと同時に収集する必要があるのです。

ユーザー自身も意識せずに行っている行動の理由を尋ねることで、質問だけでは引き出せない真実の瞬間に出くわすチャンスを得ることもあります。

まさに「事件は現場で起きている」ですね。

つまり、リサーチルームのような人工的で、本来のコンテキストから切り離された場所では真実は得られません。

 

現在・過去・未来

2つめの“オープンエンドな質問で”については、デプスインタビューはどちらかというと「仮説検証」よりも「発見」に貢献する調査手法なので、インタビュアーが確認したいことを聞いていく、のではなく、あるテーマについて“インタビュイーが話したいことを話してもらう”ことが重要です。

そのため、YES/NOで回答できてしまうクローズドな質問よりも、インタビュイーが考えるキッカケを与えたり、意識して理由などを自身が探り始めるようなオープンな質問を心がけるべきです。

例えば、あるインタビュイーの発言に対して

 

「なぜそう考えたのですか?」
「そうすることでどんな良いことや変化が起きましたか?」
「次に同じ状況になった時は、どういう行動をとると思いますか? その理由は何ですか?」

 

などは、インタビュイーに考えるキッカケを与えたり、原因と期待を知るためのオープンな質問の例ですね。

まさに、現在のある事象を基点として、その理由が生まれた“過去”の経験や、それによって起こりうる“未来”の出来事への期待を、行ったり来たりするイメージです。

こういった質問技法によって、ユーザーにとっての真意に深くダイブすることが可能になります。

 

理想的なデプスインタビューとは、インタビュイーが面談時間の8割くらいしゃべっている状態(加えて“楽しそうに”であればなおグッド!)。

こうした場づくりを心がけることで、インタビュイーはこれまで自分自身でも意識していなかったようなことについて、意識的にその理由や、それによってどうなりたかったか? を考え始めます。

そこから得られる発言こそが、深く質の高いファインディングとインサイトにつながっていきます。

 

はい! というわけで、今回はユーザーの心に深く飛び込むための、いくつかの手法とコツをお話しました。

少し具体的なことについては前述の2つの調査手法についてのみ、しかもかなりかいつまんでのご紹介となりましたが、その他の手法もそれぞれに深いメリットや実施にあたっての重要なポイントがあります。それらについては、また別の機会に。

 

この季節、寒暖の変化と日々のご多忙などでお風邪など召されぬよう。皆さま、どうぞよい年の瀬をお過ごしください。

また次回お会いできます日まで、しばらくごきげんよう。

井登友一

取締役 副社長

デザインコンサルティング企業においてUXデザインの専門事業立ち上げに参画後、2011年に株式会社インフォバーン入社。UXデザイン/サービスデザインを中心としたイノベーションデザイン支援事業部門「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」主管。