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生活者も気づいていない本質的ニーズを引き出す「デプスインタビュー10の心得」

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みなさん、こんにちは! インフォバーンKYOTOの井登です。

前回コラムを書かせていただいたさわやかな4月からうってかわって、ひと雨ごとに暑さが増し、目の前に“夏”がちらつく季節になってきましたね。

冬にざるそばを食べても汗びっしょりになるくらい基礎代謝の高いぼくには、キビシイ季節です。

早よきてくれ、秋!

さて、前回のコラムでは、良質なカスタマージャーニーのためにぼくが重要だと考えている2つのことを書かせていただき、そのうちの1つとして、「目的に合った良質なペルソナの開発」を挙げました。

では、「良質なペルソナをつくるために必要なこと」は何だったでしょう?

それは、以前のコラムでも言及したように、生活者が語ってくれない「真実の95%」をできるだけ引き出し、理解することです。

どうやってその「真実の95%」に迫るのか?
これにはたくさんの調査手法がありますが、その中でもこちらのコラムでご紹介したように、

1. 観察法
2. デプスインタビュー

の2つが、比較的取り組みやすく、得られる質的情報が多いという点でオススメしましたね。

では、誰がおこなっても深く生活者の心の声を引き出せるのでしょうか? 残念ながら、デプスインタビューを成功させるためには、意識したり身につけなくてはならない重要なことがたくさんあります。今回はその中でも、ぼくが特に重要ではないか? と考えている「デプスインタビュー10の心得」をご紹介したいと思います。

 

1.「何を知るための調査か?」をとにかく明確に

ついやってしまいがちな失敗の1つがこれです。調査する側としては、「せっかく生活者に直接インタビューできる機会なので、いろんなことを聞けるだけ聞こう」と考えがちですが、Webサービスを改善するために必要なインサイトと、革新的な製品開発のヒントを得るために必要なインサイトは異なります。「この調査は何の目的で行うのか?」を常に明確に意識しましょう。

 

2.「ラポール」と「ムード」が全てを決める

良いインタビューには、学術的知識や質問技法の習得など、素養的・技術的な側面がとても重要です。しかし、それ以上に重要なのは被験者との「信頼関係」です。

「この人には安心して何でも話せる」「いままであえて話さなかったことがあるけど、この人ならちゃんと聞いてくれそう」と感じてもらえなければ、「真実の95%」はおろか、被験者が自覚しているレベルの本音すら引き出せません。インタビュー開始前から、安心してリラックスした環境と、心を開いてもらえる関係を築くことに集中しましょう。(これを「ラポールの輪」と呼びます。)良いムードづくりと信頼関係を築けたら、インタビューは半分以上成功したも同然です。

 

3.「共感と理解」を忘れない

こちらは前述の「ラポールの輪」と近いことですが、被験者は調査側が思っている以上に緊張しています。知らない人からインタビューを受けるという、慣れない環境にドキドキする人もいますし、「わざわざ遠くまでインタビューに来てもらっているし(しかも謝礼もくれる)、良いコトを言ってあげなきゃ」という気遣いを無意識にしている人もいます。

そうなりがちな被験者を緊張状態から解放するのは「とにかく全てを受けいれてもらっている」という安心感です。「Emphasize(共感)」と「Understanding(理解)」は常にアタマとココロの片隅に置いておきましょう。無理に正しいことを話してもらうのではなく、被験者が「本当に心から話したいこと」を語ってもらうのに集中させることが大切です。

 

4.「誘導」しない

ハーバード大学ビジネススクール名誉教授であり、「ZMET法」という調査法の発案者であるGerald Zaltman教授は、自著『How Customers Think』の中で

調査の80%以上は、新たな可能性を試すことや、発展させるためのものではなく、主としてすでにある結論を強化するために使われている
(『How Customers Think』- G.Zaltman 2003)

と言っています。つまり、マーケターやリサーチャーは油断すると、無意識のうちに「自身が得たい答え」を被験者に期待し、ついつい誘導尋問のようなインタビューをしてしまいがちです。誘導して得られた発言は、決して被験者が本当に言いたかったこと、感じていたことではありません。良いインタビューとは、被験者自身が話したいことを、リラックスして、自主的に話してくれる手助けをすることです。

 

5.生活者は「ニーズを語るプロ」ではない

マーケターやリサーチャーが根本的に勘違いしがちなことの1つとしてあげられるのが、「きちんとした質問さえすれば、生活者は自分が欲していることや、自身の考えを正しく答えてくれる」という思い込みです。被験者は“欲しがるプロ”、“満ち足りないことに不満を感じるプロ”なのであって、そういったニーズを“正しく語れるプロ”ではありません。

「被験者は自身のココロやアタマの中にある気持ちや考えを、正しい言葉にできない」ということを常に肝に銘じ、被験者が「何を語りたいと思っているのか? 伝えようとしているのか?」を言葉だけでなく、身振りや表情などの非言語情報からも汲み取る努力をしましょう。

 

6.被験者に“弟子入り”する

言葉にできないニーズや考えを理解するためには、思い切って被験者に“弟子入り”しましょう。被験者が普段行っている行動(たとえば、キッチンで料理をするとか、スマホを使って旅行サイトでツアー予約をするなど)を再現してもらい、リサーチャー自らが全く同じ行動を弟子になったつもりで行うのです。被験者は普段何気なく行っていて、自身では特別な行動をしているつもりではなくても、別の人間であるリサーチャーが行うと、小さな違和感を感じることが多々あります。

サイトを使う際の独特の操作手順や、料理をする際のその人なりの工夫など、“小さな違和感”を弟子になったつもりで敏感に感じ、「いま、どうしてそういう行動をとったのですか?」や、「その作業はいつもやるのですか? なぜやるのですか?」と被験者に問いかけることで、被験者自身にも気づきを与えられます。普段意識していなかったことを自身でも意識し、その理由を考えてもらうことで、無意識のうちに起きていた「未充足のニーズ」や「自身にとっての快適さ」を理解できます。

 

7.生活者は平気で「うそ」をつく

ちゃんとした質問さえすれば、被験者は常に本当のことを話してくれるでしょうか?答えはノーです。

「うそ」と書きましたが、正しくは「被験者は“そう見られたい自分”に見られるような発言」をしがちだということです。「いつもスマートで知的に暮らす自分」「周囲の人や環境に配慮している自分」「子どもに対して常に慈愛の心をもって接する寛容な自分」などなど。

悪気があったり、うそをつくつもりはなくても、ついつい無意識にそう見られたいという気持ちが働き、“そうありたい自分”が顔を出してくるのです。それが普通の人ですし、ぼくもきっとそうです(笑)。重要な質問は、言葉を変えてインタビューの最初の方と終わりの方で繰り返し同じ質問をするなどの工夫をしましょう。

 

8.「なぜ?」を繰り返そう

「なぜ?」を繰り返して掘り下げる質問法は、「トヨタ方式」をはじめ、本質的な原因を知るために有効な方法であるということは広く知られていますね。しかし、デプスインタビューの場合、「深ければ深いほど良い」というわけではありません。

大抵の問題や未充足はとことん掘り下げていくと、同じような根源的問題に行き着いてしまいがちです(「認められたい」、「危険に怯えることなく生きたい」、「金銭的に裕福になりたい」など)。重要なのは、とことん深堀りすることではなく、「調査の目的にとって必要十分なレベルまで掘り下げる」ということを心がけることで、調査で得られた発見や洞察を、本来の目的に活用できるようになります。

 

9.被験者にとっての「過去~現在~未来」をタイムトリップしよう

さきほどの「8.『なぜ?』を繰り返そう」が縦方向に理解を深めるための心得だとしたら、これはヨコ方向に理解を拡げるための心得です。

ある質問を投げかけたときに被験者が発する発言は、大抵の場合「現在」を起点にしていることが多いです。物事には「原因」と「結果」があります。たとえば、「ボタンは押しやすいほうが良いですね」という発言があったとしたら、これは恐らく現在の未充足ニーズですが、ひょっとしたら、ボタンが押しにくかったことで不便な思いをしたり、操作を失敗した「過去」の不快な出来事がキッカケとなっているかもしれませんし、ボタンが押しやすいことで得たいと思っている「未来」への期待があるのかもしれません。

被験者の発言そのものだけを捉えるのではなく、「なぜそう感じたのですか?(過去のトリガーとなった体験)」や、「それが実現すると、どういった良いことがありますか?(未来への期待)」といった拡張質問をすることで、背景や本当の期待を広く理解する助けになります。

 

10.百聞は一見に如かず

さて、ようやく10個目の心得です! ここまで読んでくだった懸命なみなさんなら、もうお気づきだと思いますが、生活者が話してくれる言葉“以外”の情報には、言葉で表現されている情報の何10倍、何100倍もの情報が詰まっています。
「自宅での暮らしぶりは?」「どういった本を読んで、どういったコーヒーカップを使っているか?」「キッチンの冷蔵庫に貼ってあるチラシや、備忘録には何が書かれているか?」などなど。

生活者に対する調査であればご自宅、ビジネスユーザーに対する調査であればオフィスや工場など、知りたいことに一番近い「現場」でインタビューや行動観察を行う意味と価値は、まさにここにあります。インタビュールームなどの「つくられた環境」で得られる情報は、何かしら「つくられた情報」になりがちです。(被験者も、きっと普段以上に緊張しますよね?)

ぜひ、知りたいことに一番近い「現場」に出かけて、リアルな言葉、リアルな行動や環境を通して、生活者への理解と共感を深めましょう。
以上が、ぼくが拙い経験上から得た、生活者も気づいていない本質的ニーズを引き出す「デプスインタビュー10の心得」です。

今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!

インフォバーンKYOTOのオフィスがある京都烏丸御池では、今年もそろそろ祇園祭の季節がやってきます。もしお祭をお楽しみに京都にお越しの際には、ぜひぼくたちのオフィスに遊びにおいでください。

れではまた次回のコラムまで、ごきげんよう。

photo:Thinkstock / Getty Images

井登友一

取締役 副社長

デザインコンサルティング企業においてUXデザインの専門事業立ち上げに参画後、2011年に株式会社インフォバーン入社。UXデザイン/サービスデザインを中心としたイノベーションデザイン支援事業部門「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」主管。