アートディレクターの木継です。本コラムでは、実際の制作現場から日々感じたことなどを、メモがわりにアップしていきたいと思います。
さて今回は、先週末行われた、当社がプロモーションに関わり、また電子版書籍を1万部無料配布して話題となった『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)のトークイベント「フリーミアム・ハックス」の話題から。
詳細はlifehackerのイベントレポートをご覧いただくとして、制作者の視点から気付いたことを記しておきます。
登壇者は佐藤僚氏(頓智ドット株式会社 COO)、杉山竜太郎氏(株式会社LoiLo取締役)、田端信太郎氏(株式会社ライブドア執行役員/メディア事業部長)。モデレーターは弊社CEO小林。
「フリーミアム」とは「フリー」と「プレミアム」を足した新たなビジネスモデルをさす造語ですが、そのビジネスのリアルな実践者たちによるトークは、セカイカメラの最大化戦略からフリーペーパーの高品質化のしくみ、そしてアテンション・エコノミーからドネーションまでその話題を拡げ、メディアビジネスやネットマーケティングに携わる人にとってはいくつかのヒントがちりばめられた内容だったのではないでしょうか。
私にとってのヒントは、今後、よりコンテンツ(サービス)開発能力が問われるだろうということと、コンテンツ(サービス)とデザインはより不可分なものになるだろう、ということ。
今回のトークショーは「フリー」の部分に議論の重点がおかれたようですが、我々制作者にとって重要なのはさらにその先。つまり、フリー戦略によってユーザーの母数が増大した上で、いかにタダで手に入る他のものとは圧倒的な差異のある「プレミアム」な価値を提供できるか、ということです。
例えばメディアにおけるそれは高品質なコンテンツですが、高品質なコンテンツは、「情報」がコンテンツ化される過程において、必ずデザインが高次元で関与しています。
ところがデザイナーは、コンテンツとはすでにあるものと思いがち。
当社でも、制作部門が「コンテンツ/クリエイティブ/WEBディレクション」という3つの専門領域に分かれているため、合理的な制作フローを構築して各自が専門性を発揮しやすい反面、その弊害として、デザイナーは、分業制による錯覚──すなわちデザインとは「(誰か別の人が用意してくれた)コンテンツに形を与える」ということ──に陥りがちです。
いうまでもなく、デザインとは、「既にあるコンテンツ」に形を与えることだけではありません。「情報」を見つけ出して「コンテンツ」に変え、ターゲットのもつテンプレートにあわせてアウトプットしていく──そのプロセスそのものが「デザイン」なんですね。
合理化が進んだ体制は、時にそんな自明なことを忘れさせてしまうこともあるようです。
情報をノイズ化させるのではなく、いかにその有用性を柔軟に可視化しながら、細分化されたユーザーに届けるのか──今後ますます増大していくであろうその困難さを思いながら、「フリーミアム」という新しいビジネスの潮流のさらに向こう側に、我々デザイナーが拓くべき地平がチラッと垣間見えた気がします。

