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情報アーキテクチャ(IA)の国際会議“IA Summit2015”参加レポート

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こんにちは、インフォバーンKYOTOの井登です。

先日、4月24日〜26日の3日間米国ミネソタ州のミネアポリスで開催された、情報アーキテクチャ(Information Architecture:以下「IA」)の国際カンファレンス”IA Summit2015”に参加しました。

情報アーキテクチャ(IA)とは何か? という説明については、非常に幅広い領域と深い解釈が存在するため、あくまで本コラムを読んでいただくにあたっての共通情報として、ここではWikipediaでの記述を引用したいと思います。

Wikiでは、

情報アーキテクチャ(Information Architecture)は、知識やデータの組織化を意味し、「情報をわかりやすく伝え」「受け手が情報を探しやすくする」ための表現技術である。 Webデザインの発展に伴い、従来のグラフィックデザイン(平面デザイン)に加え、編集・ビジュアルコミュニケーション・テクノロジーを融合したデザインが要求されるようになった。情報アーキテクチャはこれらの要素技術を組み合わせた、わかりやすさのためのデザインである。Web技術の発達に伴いその重要性が認識されているが、情報アーキテクチャの考え方自体は、紙面デザインの頃から変わらない。

-Wikipediaより引用

この3日間の濃密なカンファレンス体験を通して感じた所感について、共有させていただきたいと思います。

IA Summitへの自身の参加は、2年前のBaltimore大会に初参加して以来、2度目の参加でした。(2年前の参加レポート群はこちら)ファーストタイマーとして参加した2年前は、本当に右も左も分からないおのぼりさん状態で、カンファレンスそのものの作法もわからず…。現地で合流した日本からの数少ない参加者以外に知り合いもいない中で、情報設計や情報学、そしてエクスペリエンスデザインの専門家が集まり、高度で難解なワークショップやセッションが会場の随所で思い思いに行われる迫力にあたふたばかりしていました。しかし今回は、事前に事務局から提供される有益な情報をチェックして会期中のアクティビティを計画したり、前回のサミットを機に知り合った米国、欧州のIAやデザインのエキスパートたちに連絡をとり、現地で交流を温める段取りをしたりと、不慣れながらも少しは楽しんで有益な機会を自分からつくりに行ける余裕ができました。

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今年のカンファレンステーマは、”reclaiming information architecture” 。 2年前に参加した2013年のテーマである”reframing information architecture”、そして参加できなかった昨年2014年のテーマである”The path ahead”という流れを見ると、情報を取り巻く多様で複雑な変化の中、これまでのIAが担ってきた枠組みを壊して新たな枠組みを自ら模索した結果、「IAがこの世の中に貢献できる価値を取り戻そう!」という高まりに至った機運を、数々のセッションや対話を通じて体感できた3日間でした。

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オープニングキーノートを飾ったのは、オークランドに拠点をおくデザインファームFUTUREDRAFTのパートナーで、IAの世界で最も重要な名著とされている通称「シロクマ本(The Polar Bear Book)」“Information Architecture for the World Wide Web”の最新版である第4版の改訂にも携わったJorge Arango(@jarango)。建築から始まった自身のキャリアの紹介と絡めてIAとの関わりに触れ、ここ数年議論されてきたIA界における大きな論調と考え方の整理を行うことを通じて、これからの世の中でIAが志向すべき指針を、3つの規範と2つのゴールという形で提言しました。

3つの規範(3disciplines underlie IA)とは、

  • place made of language (言葉から生まれる場所)
  • consistency across context(文脈を横断した一貫性)
  • system thinking(システム思考)

そして2つのゴールとして、

  • Findability(見つけやすさ)
  • Understanding(理解)

この3つの規範と2つのゴールは、今までのIAとこれからのIAを考える上での非常に重要なキーワードとして、今回のカンファレンスを通じて随所で語られることになりました。

Jorgeが務めたDay1の結びのキーノートには、なんとあのTed NelsonがSkypeを通じて登壇するというサプライズが。

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現代のWebの源流ともいえる、“Hyper Text”という概念を生み出した、いうなればWebの父ともいえるTedの考えるこれからの世界における情報とコミュニケーションに関して、IAが担う役割と期待について自ら語るという非常に象徴的な時間を体感できました。
Webがある時代に生きられてよかった。

そして、Day2。今年のIA Summitに、ある意味激震をもたらしたと随所で話題となったMarsha Haverty(@mjane_h)によるセッションでは、これまでのIAの概念を新たにする設計指針(思想)が提言されました。
この“What We Mean by Meaning: New Structural Properties of IA”と題されたセッションは、「情報が持つ意味性は水のように変化するものである(“meaning is flow”)」という非常に示唆的な概念を提示し、Linguistic(言語)とPerception(知覚)という大きな2つの軸の中で常に変化する情報の意味性をいかに扱うか?という新鮮な枠組みの提言を行いました。

ぼく自身は実はこのセッションの最中、別のセッションを聴講しており、セッション後にあちこちで大騒ぎになっていて悔しい思いをしたのですが、あまりの反響になんとリクエストセッションのような形で翌日に再演されることになって、運良く聴講することできました。
このセッションをライブで聴講できたことは、今回のカンファレンスでも大きな価値であったということを、会期中いろいろな人と対話をする中で実感しました。

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そしてイギリス国営放送であるBBC NewsのデータアーキテクトであるPaul Rissen(@r4isstatic)は、”Designing Webs: IA as a Creative Practice”と題したセッションで、BBCのサイトにおけるドラマ番組のコンテンツの情報設計について語りました。
彼はリメイク版の「ドクター・フー」という番組コンテンツの事例を通じて、従来の「番組カテゴリ」などといった平面的な分類ではなく、登場人物ごとの微細なストーリーや、過去の番組の中におけるキャラクターの関わりなどを立体的で複層的なタクソノミー(情報分類)で関連づけて視聴者にコンテンツ提供している実践例を提供。

これは従来のように、「コンテンツはWebサイトの中できれいに整理され、サイト利用者が自身の意思で情報にたどり着くもの」という思考の枠組みを外し、スマートフォンやIoT(Internet of Things=モノのインターネット)、ウェアラブル端末などの新しい生活者と情報の接点による情報アクセスが急加速する環境の中で、よりセマンティックで文脈性に基づいた情報分類を実践している好例だと感じました。

彼はプレゼンテーションの結びとして、

  • Webを考えることは、”Webサイト”だけを考えることではなく、情報集合体としての“Webs”を考えることだ
  • WWW(WorldWideWeb)は、クリエイティビティを申し分なく表現できる場である
  • 高次元・低次元両面の文化を創りだすことでネットワークされた世界につながっていくべきである
  • APIとIoTは、魔法と錬金術(が起こすようなすごい世界の実現)を可能にしてくれる

と主張し、これからの世の中における”コンテンツ”と”人”の関わりに、IAが貢献すべきことと役割を示唆しました。

PaulはDay1の夜に開催されたポスターセッションでも、BBCがTaxonomyとLinked Dataを軸として、自動的な処理のみならず人力をも組み合わせて感性的かつ文脈相関性をデータに付与したニュースのレコメンデーションシステムについてプレゼンしており、こちらからの質問にも気さくに答えてくれました。

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これは、ニュースメディアのみならず、コンテンツとオーディエンスの繋ぎ手となるメディアが、あらゆる情報がデータ化され、メタ属性を保有して、タグによって分類されうる今の世界において、その語源であるmediumの根源に立ち返ることで、その価値を再生成しつつあるように感じて、メディアに関わる人間のはしくれとして、とても示唆深い学びとなりました。

他にもたくさんの価値あるセッションがありましたが、特に印象深かったものの紹介にとどめつつ、現時点での自身の所感として、以下の5つを共有したいと思います。

  • 情報設計における”情報”と”設計”の範囲は、これまで以上に拡がり、複雑性をましている
  • データやインターフェイスとなるデバイス、そしてユーザー経験を中心に設計すべきである
  • インターフェイスの多様化とデータの急増を背景に、デジタルとフィジカルの領域はますます輪郭をうすめていく
  • 情報は変化し、意味も変化する。だから、従来(まさに”Architecture”という物理建築における設計の概念)のように設計された時点で完成し、その後は劣化・風化していくものでなく、言語と知覚の観点からカタチを変えていく環境を考慮に入れて設計すべき
  • データとインターフェイスといった”Digital”の理解はより重要性を増すことは当然のこととして、以降はデータやインターフェイスがIAを定義するのではなく、人を中心したIAが、データやインターフェイスの在り方を設計・定義していく役割を担うことが自然になるだろう

あまりに多くの情報量と、深い示唆に富んだカンファレンスだったので、まだまだ自分自身が十分な解釈と理解ができていない状態ではありますが、改めて今の世の中でデジタルとコミュニケーション、コンテンツとメディア、そしてユーザーエクスペリエンスデザインに関わる現場にいられることを幸せに感じることができた3日間でした。
来年のIA Summit2016は5月にアトランタでの開催とのこと。
情報設計のみならず、デザインに関わる雲の上の存在のような人たちと身近に出会い、対話することができる場であることもこのカンファレンスの大きな魅力のひとつです。

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※ 情報設計に関わる人の中では知らない人はいない「シロクマ本」の著者であるピーター・モーヴィルとルイス・ローゼンフェルドによる、著書のサイン即売会

 

関心を持たれた方はぜひ一度参加し、体験していただきたい価値あるカンファレンスであることをおすすめします。

 

それではまた次回のコラムでお目にかかりたいと思います。
ごきげんよう。

井登友一

取締役 副社長

デザインコンサルティング企業においてUXデザインの専門事業立ち上げに参画後、2011年に株式会社インフォバーン入社。UXデザイン/サービスデザインを中心としたイノベーションデザイン支援事業部門「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」主管。