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【海外事例】観光業界:復活までの準備期間にコンテンツマーケティングを選んだ企業たち

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パンデミックで真っ先に打撃を受けた観光業界。2020年3月以降、海外渡航や出国が制限される国も多く、航空会社やホテルの予約は9割以上減少、クルーズ船にも航行禁止命令が出されました。移動が制限され観光や旅行が控えられるなか、観光業界はどうやってコミュニケーションを持続させているのか。ホテルに航空会社、観光協会まで、観光業界におけるコンテンツマーケティングの事例を紹介します。

新しい動画プラットフォームTikTokでユーザー開拓: TripHacks DC

旅行のキャンセルや休止が相次ぐ中、ワシントンD.C.でタウンツアーのガイドを行う「Trip Hacks DC」もツアーを何ヶ月も停止することになりました。その影響もあって「Trip Hacks DC」のYouTubeチャンネルの再生回数は減り、ポッドキャストのダウンロード数も大幅に激減。そんななか、オーナーのRob Pitingolo氏は新しくTikTokを始めて2020年の12月の一か月の間1日1本の動画を投稿するという実験を行い、そのレポートをMediumで公開しました。

1ヶ月に渡る実験で、最終的に「TripHacks DC」のアカウントはTikTokで738,551回の動画再生、3,511人の新規フォロワー、92,300回の「いいね!」、6,572回のプロフィールビューを獲得。ゼロからスタートして、31日間で約25万人の目に触れる結果となりました。

@triphacksdc One spot. Three iconic DC sites. #washingtondc #dc #nationalmall #washingtonmonument #capitol #lincolnmemorial #washingtondctrip ♬ Superman – The BBC Concert Orchestra

一番再生数が多かったのは、ワシントン記念塔の近くからワシントンD.C.のアイコニックな遺跡を見渡せるスポットの紹介(約320,000再生以上)。ほかには、フロリダ・ハウス(約150,000再生以上)や、あまり知られていないフランクリン・ルーズベルトの記念碑(約6,6000ビュー以上)などが上位を占めました。Robが言うには、彼の顔が写っている動画で3,000回以上再生されたものは1つもなく、最も効果があったのはナレーション入りの動画でした。TikTokが使っているアルゴリズムも公式に公開されていますが、理論がわかっていても必ずしもうまく行くわけではなかったとも言っています。

ただ、1ヶ月でこれだけの結果を出せたのは、TikTokを活用するツアーオペレーターがまだ少なく、受け入れられ方を試行錯誤する様子も含め、目新しさがTikTokユーザーの関心を引いたことが功を奏したと言えるでしょう。

Source: TikTok for Tour Operators: A One-Month Experiment(https://triphacksdc.medium.com/tiktok-for-tour-operators-a-one-month-experiment-18438a85f421

質・量ともに全力でトリプルメディア戦略を実行:Marriott International

Screenshot: Connect with Confidence/Marriott International News Center

世界中の宿泊客を失ったホテルが宿泊サブスクリプションやリモートワーク用のデイユースプランなどを展開するなか、デジタルを軸足に全方位的なコンテンツマーケティングを行ったのがホテルブランド「Marriott International」。

「Marriott International」では、パンデミックの際に、宿泊需要と客室1室あたりの収益が90%も急減。長期にわたる閉鎖と出張目的の顧客が激減する中で、マーケティング費用の使い方を見直し、迅速に132カ国・7,500の施設を対象にデータに基づいたメディア戦略を展開しました。メディアブランドの運営と広告プラットフォームを運営するVerizon Mediaとタッグを組んで、「Browse, Shop and Buy」というマーケティング戦略を展開。

具体的には、車での移動を想定し、パーソナライズされた目的地でマリオットが提供しているホテルやレンタルホームなどを提案できるツールを開発したのです。その目的は、旅行中の消費者を見つけ出し、マリオットのホテルを予約してもらうことでした。このアプローチにより、地元のドライブ旅行をする人々という、当時としては新しいセグメントの旅行者を発見しました。

現在も継続しているこのキャンペーンでは、マリオットの清潔さと衛生面へのこだわりを強調し、地元の旅行を促進することで「より長く、ゆったりと過ごせる空間を求める人々」を獲得することが狙いだと言います。

同時に、プレスリリースによるアーンドメディア、CEOによる企業広報活動や定期的に更新されるブログによるオウンドメディア、そして「We Will Travel Again」キャンペーンによるペイドメディアを組み合わせて展開しています。ブログでは「いまは旅行はできないけれど、どこかに行くことを夢見ることをやめるべきではない」というメッセージを発信しつつ、地域社会を支援するための取り組みなども伝えています。

Source: Marriott International News Center(https://news.marriott.com/

レシピにクイズ、Spotifyプレイリストまで・・・コンテンツで囲い込む:英国政府観光庁

Screenshot: Visit Britain/Spotify

英国政府観光庁のインバウンド観光ブランド「Visit Britain」は、300万人以上のフォロワーをもっているTwitter、Facebookを始めとして、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディアプラットフォームを駆使して、英国カルチャーの色々な側面を紹介しています。

現地を訪れずともイギリスを体験させようとするアイデアに数多く取り組んでおり、映画のリコメンドから、イギリスのヒットチャートを集めたSpotifyのプレイリスト、自分で作るアフタヌーンティーのレシピ、自宅でできるパブクイズにいたるまで、家にいながらイギリス旅行をしている気分を味あわせてくれます。

このキャンペーンは、家にいることを推奨する一方で、安全になったら家に来てほしいという、相反する2つのメッセージを送ることに成功したと言えるでしょう。

source: Visit Britain(https://www.visitbritain.com/gb/en

クリーンパートナーシップという新しいブランディング:航空会社

新型コロナウィルスは航空会社に「クリーンパートナーシップ」という新しいパートナーシップの形を生み出しました。たとえば、「サウジアラビア航空」は、安全に飛行できる航空会社というブランドの信頼を取り戻すために清掃用品ブランドの「Dettol(デトール)」と、「デルタ航空」は「Lysol®(ライゾール)」と提携。

Movie: How We’re Partnering with Lysol to Keep Surfaces Safe | Delta Air Lines/Youtube

さらに「ユナイテッド航空」は「Clorox(クロロックス)」と提携しました。この背景には「機内での衛生管理を徹底し、衛生用品へのアクセスを向上させる」意図があります。これらの提携先は「本物のブランド」であるため、搭乗するお客様に親近感と信頼感を与える結果となりました。

ユナイテッド航空の公式YouTubeでは、2020年5月にCEOに就任したスコット・カービー氏の動画を公開。投資や国際線路線拡大などの継続的な成長戦略といった経営方針について話す代わりに、医療物資や必需品の輸送、医療関係者への無償フライトの提供を通じた社会貢献、衛生面での信頼感を高める取り組みを伝えるとともに以下のように語りました。

この世界的パンデミックがいつ鎮静化するのか判らない一方、私たちに今わかっていることは、旅は世界文化に深く織り込まれているということです。私たちは皆、家族を訪ねること、友人のウェディングパーティで踊ること、両親を抱きしめること、そしてこの美しい世界の驚異を自分の目で見ることを切望しています。どんなに写真が鮮明でも、どんなに強いWi-Fiのシグナルがあっても、その場にいること、その場で集まり、直接出会い、共に祝う喜びに代わるものはありません。

私たちは、皆さまがまた旅に出る日が来ることを確信しています。その際には、皆さまをユナイテッドのフレンドリースカイでお迎えいたします。

source: Delta Air Lines teams up with RB, the maker of Lysol®, to advance Delta CareStandard and disinfection protocols(https://news.delta.com/delta-air-lines-teams-rb-maker-lysolr-advance-delta-carestandard-and-disinfection-protocols

source: 新CEO、スコット・カービーからのメッセージ – United Hub(https://hub.united.com/united-message-new-ceo-scott-kirby-jp-2646083637.htmlhttps://news.delta.com/delta-air-lines-teams-rb-maker-lysolr-advance-delta-carestandard-and-disinfection-protocols

バーチャル体験で地元コミュニティを支援:サンタフェ観光局(ニューメキシコ州)

Movie: It’s An Easy Road Trip/Youtube

サンタフェ観光局は「Dream Now, Visit Later(今すぐ夢を見て、あとで訪れよう)」というキャンペーンを展開。旅行が再開された際に、サンタフェのことを頭に浮かべてもらうのが目的です。コンテンツの配信は、ソーシャルメディアやブログといったオウンドメディアのコンテンツに加え、バーチャルアーティストのスタジオ訪問やサンタフェオペラのリスニングパーティーなど、地元クリエーターによるバーチャル体験を企画しています。

これらのコンテンツはこの土地の特徴を表現するだけでなく、バーチャルな文化体験を企画することで地元コミュニティを支援するという取り組みになっています。これらのコンテンツは、3〜5日の頻繁で投稿され、プラットフォームを問わずにアクセスできます。

Source: HOW TO VIRTUALLY EXPERIENCE THE CITY DIFFERENT FROM THE COMFORT OF YOUR HOME(https://www.santafe.org/visiting-santa-fe/virtually-explore-santa-fe/

国内外クリエイター向けコンペを実施。シンガポールのストーリーを表現:シンガポール政府観光局

シンガポール政府観光局は、その魅力を伝えるべくファンドを設立。旅行先としてのシンガポール、愛される故郷としてのシンガポール、そして情熱が輝く場所としてのシンガポールの素晴らしいストーリーを伝えるべく、国内外のクリエイターを対象に「Singapore Stories」というテーマでコンペを実施しました。

Persevering Preservations」というビデオシリーズでは、シンガポールの文化に根ざした伝統を守るために戦っている人々にスポットライトを当て、シンガポールが協力して伝統を守るために努力している様子を紹介しています。あるビデオでは、籐椅子をつくる職人や、ママショップ(家族経営の食料品店)オーナー、ホーカーズ(屋台村)を救ったグルメグループなどが登場し、強さと回復力、連帯感と団結力がシンガポールを逆境から導いたことを表しています。

また下記のような祖母と孫の対話からシンガポールのストーリーを描き出す動画も、じっくりと見たくなるクオリティとなっています。

Movie: Persevering Preservations/YouTube

Source: Singapore Stories(https://singapore-stories.com/)、Singapore Tourism Board launches content fund(https://www.c-mw.net/singapore-tourism-board-launches-content-fund/

これらのように、停滞期の過ごし方は企業もさまざま。リソース配分を変えて普段はできないチャレンジをする企業もあれば、従来取り組んでいた事をより注力させていく考え方もあるでしょう。この時期に腰を据えてブランドイメージの向上や、ブランドの想起をおこさせるような取り組みをしたことが、今後どのようにビジネスにつながるのかを注目していきたいですね。

Illustration by Getty Images

EX Journal編集部

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