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「旅の準備は十分かい?」:良質なカスタマージャーニーのために欠かせない2つの大切なコト

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みなさん、こんにちは。インフォバーンKYOTOの井登です。

前回年明け早々にこちらでコラムを書かせていただいてからあっというまにもう4月も終盤。昔からよく言われる「一月は行く、ニ月は逃げる、三月は去る」ということわざを実感しています。

弊社京都支社のある京都烏丸御池界隈では桜の季節は終わってしまいましたが、目前に迫ったゴールデンウィークに向けて観光客の方々がまた続々と国内外からいらっしゃるのを見ては、

「あー、ぼくも、旅に、出たい、なぁ……」

と、現実逃避次の休暇の計画に思いをはせるこの頃です(笑。

ところで、「旅」と言えば(強引)、以前書かせていただいたコラムでもご紹介しましたが、ユーザー中心の発想で良質なエクスペリエンスデザインを行ううえで、あたかも自身の重要なユーザーと“経験の旅”を共にするかのようにユーザーにとっての経験とゴールを発想・可視化する手法である「カスタマージャーニー(法)」が非常に有益な手法であり、ツールであることについては、すでに多くの方がご存知でしょうし、実際に実践されている方も多いことと思います。

カスタマージャーニーについては、昨今たくさんの専門家や実務家の方がその手法や取り組み方、そして良いアウトプットのコツなどをご紹介されていることもあり、もはやかつてのように一部の専門的な知見や知識を持ったエキスパートしか取り扱うことができない専門的なメソッドではなくなりつつます。

その結果、ユーザーと自社との良質なストーリーを描くことの助けとなる一般的なデザインツールとして解放されて多くの方に広まりつつあることは、リサーチやUXデザインの世界の片隅で長いあいだ仕事をしてきた身にとって、このうえなくうれしく、喜ばしいことに感じます。

 

良い旅には、十分な準備が必要

チームメンバーで同じ部屋に集まり、壁に張り出した大きな模造紙などに色とりどりのフセンを貼りながらわいわい行うセッションはとても楽しいし、普段の会議に比べていかにもクリエイティブなアイデアが生みだされそうな気持ちを盛り上げてくれます。

そうやって、仲間やお客様と取り組むこの時間がぼくも大好きです。

みんなで作り上げたカスタマージャーニーマップを眺めていると、貼りだされた数々のフセンの色どりがキレイでバランスがよかった時などはすごくうれしくなるし、「わたしたちはすごく良いストーリーを描けてる!」なんて、とてもいい気分になりますよね?

カスタマージャーニーセッションが持つ重要な価値のひとつは、このようにプロジェクトメンバーの気持ちを同じ方向に向け、良いムードを持ったチームを作るための役に立つ、といえるでしょう。

ただ片方で、

「あんなにプロジェクトメンバー全員で満場一致で盛り上がって出したアイデアなのに、実際にやってみたら上手くいかなかったょ……」

とか、

「アイデアは山ほど出たんだけど、どれから手を付けるべきか悩んでいるうちに何もできないまま時間が過ぎてってるよぅ……」

なんていう経験、皆さんにはありませんか?

そのように、カスタマージャーニーセッションをやったからといって成功するケースばかりではない、ということをリアルに痛感された方も少なくないと思います。

そんな声を聞くにつけ、良くないケースが起こる原因として次の2つが挙げられるんじゃないか、とぼくは考えています。

 

で、行き先は本当に合ってる???

1.カスタマージャーニーを描く以前に、そもそも自社の重要なユーザーのことをきちんと理解していなかった。
2.なんのためにカスタマージャーニーを描くのか?というテーマ定義を明確にしていなかった。

 

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1つめに関しては、前述させていただいた以前のコラムで書かせていただいた、“ユーザー中心のコンテンツ設計にあたって欠かせない4つのプロセスがある”というお話を振り返りたいと思います。

  1. 自社にとっての“重要なユーザー(ペルソナ)”を特定する。
  2. ペルソナにとっての“本質的なニーズとゴール”を明確にする。
  3.  ペルソナがゴールにたどり着くまでの“理想的なストーリー”を具体的に描き出す。
  4.  ペルソナが理想的なストーリーを全うするために自社が提供すべき“良い体験”を明確化する。

 

賢明な読者の方は理解されていると思いますが、カスタマージャーニー法を活用することで明確化できることは、上記の3と4です。

つまり、カスタマージャーニーを描くための重要で欠かせないインプットとなる上記の1と2、つまり「ペルソナの特定」と「ペルソナにとっての本質的なニーズとゴールの明確化」が不十分であったり、そもそも1と2はやってない、なんていう状態で、質の良いカスタマージャーニーが描けるはずはない、ということです。

そのうえ、目的に応じて適切に設計・実施された調査にもとづく根拠や深い洞察がない状態で、ユーザー像やゴールまでのシナリオを描くことは、自社にとって都合のよい“ユーザー不在の旅の道のり”をひとりよがりに発想してしまう危険性を伴います。

そうやった作られた不十分なシナリオは、いわば“誤った地図”のようなもの。

間違った地図を見ていたら、問題解決のアイデアを誤った目的地にミスリードしてしまう恐れがあることは言わずもがな、ですよね?

少なくともマーケティングの世界に100%の正解なんてものは存在しないことは誰もが承知していることではありますが、少しでもその成功可能性を最大化する上でも、自社にとって質の高いペルソナを、適切な方法で創りあげることから始めることが、良いカスタマージャーニーを描くうえで欠かせないことではないかと思います。

2つめについても、とても重要な点です。
良くないカスタマージャーニーセッションの特徴として、漫然としたテーマ設定でやってしまう、ということが挙げられます。
例えば、

A. 「オンラインでの経験をより良いものに再設計するため」なのか?
B. 「アプリのUIデザインを最適化するため」なのか?
C. 「顧客に提供すべき自社の事業と、それを取り巻く経験全体をゼロベースで考え直すため」なのか?

といったことです。

少々極端な例を挙げましたが、一見してお分かりのように、それぞれの目的には“レベルと次元の違い”がありますよね?

裏を返すと、これらの目的を成功に導くために必要とされる“理解すべきユーザー経験のレベルと次元(質と幅、時間軸など)”が違うということになりますし、さらに言い換えると
“プロジェクトのスコープ定義によって、必要とされる適切なペルソナと、時間軸や経験のレイヤーなどカスタマージャーニーのフォーマット軸が決まる”、ということが言えます。

何を導くために行うか?の定義が曖昧な状態でいくら想像でユーザーシナリオを描いたところで、自社のゴールにとって価値のあるアウトプットを得るには十分ではないとうことですね。

 

旅の準備に欠かせない、大切な2つの“持ち物”

  • 目的に合った良質なペルソナの開発
  • 描くべきスコープを明確に定義したカスタマージャーニー発想

これら2つが、カスタマージャーニーを成功に導くための大切なポイントである、というのがぼくの意見です。

もちろん一方で、前述しましたようにカスタマージャーニーをチームビルディングやムードづくりのツールとして活用する価値はとても大きいと思います。

これについても、何を目的にカスタマージャーニーをやるか?=プロジェクトスコープを何に定義するか?、の検討の際にぜひ関係者で意見を出し合って考えてみてください。

毎度のことながらとりとめのない長文・乱文へのお付き合いをいただき、ありがとうございました。次回の執筆はしばらく先になるかと思いますが、また良い季節を迎える頃にお目にかかりましょう。

それでは京の都より敬愛をこめて、ごきげんよう。

 

井登友一

取締役 副社長

デザインコンサルティング企業においてUXデザインの専門事業立ち上げに参画後、2011年に株式会社インフォバーン入社。UXデザイン/サービスデザインを中心としたイノベーションデザイン支援事業部門「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」主管。