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2016.11.30

“Service Design Global Conference 2016” 参加レポート

こんにちは。インフォバーン京都デザインディレクターの辻村です。

昨年のニューヨークでの開催に引き続き、1027日・28日の2日間にわたりアムステルダムで開催されたService Design Network (SDN)が主催するService Design Global Conference 2016SDGC2016)に参加してきました。

SDGCは今年で9回目。記念すべき第1回の開催地も同じアムステルダムということもあり、この8年間のサービスデザインコミュニティーの成長やサービスデザインが普及してきている現在の状況をトピックとする話も多く聞くことができました。今年の開催は世界各地から約650名が参加するまでに成長し、サービスデザインのトレンドを発信する組織として不可欠なものとなっていることがうかがえます。 

Business as Unusual

今年のカンファレンステーマは“Business as Unusual”。我々デザイナーにとっての“Business as Usual”は美しく機能的なプロダクトを作ることだったのかもしれません。しかし、今となってはそのプロダクトを使うユーザーの体験をデザインすること、さらにはプロダクトやサービスを提供する組織やビジネスをデザインすることまで期待されています。

このような状況下、今年のテーマは、Holistic(あるものを取り巻く環境、システムを考えらえる)でConscious(チームやステークホルダーを意識できる)な視点を持つことが期待されているサービスデザイナーであるがゆえのチャレンジを示唆したものではないでしょうか? 日々変化する環境をポジティブに捉え、自らのチームや時には自らの職能を環境に適応させ、今までは“Business as Unusual”だと思われていたことにもチャレンジして新たな“Business as Usual”をデザインしていく、そんなイメージ持ちました。

今年のカンファレンスでも多くのチャレンジに関する報告を多く聞くことができました。その中でも気になったことをいくつかご紹介します。

The first customer is the organization itself

KONE(フィンランドに本社を置く、1800年代創業のエレベーターやエスカレーターの製造業社)のPaolla氏が語った「最初の“お客様は自社組織(“The first customer is the organization itself”)」という言葉に表れているように、彼の社内では組織改革や従業員のメンタル改革というチャレンジが多くなされているようです。具体的で、かつ手にとって感じられることから実践し、小さな成功を経験してもらう。その過程で、サービスデザインに関して懐疑的であった従業員同士の会話が、顧客中心の建設的な内容に変化していったというのです。最後に「ビジネスを組織内から動かす(“Transform the business from within”)」という言葉を用いて、従業員へのデザインマインドの浸透に尽力している様子を語りました。

類似の報告を行ったのが日本でも話題のSpotifyKatie Koch氏でした。Spotifyの開発チームは「Think it / Build it / Ship it / Tweak it」と言うステップを踏み顧客体験を向上させようと取り組んでいます。しかしその過程で、アジャイル開発におけるスピードを実践するあまり、リリースばかりを急いでしまい、大きな絵を描けず、本質的な戦略を欠いたアプローチとなってしまっていました。この欠陥を埋めるために、ステークホルダーと呼んでいた関係者をパートナーと呼び、チーム内の共通認識に基づいて、顧客の問題解決視点でのプロジェクトゴール設定へと、軌道修正を図っているようです。

サービスデザイン手法を実践的に取り入れた成功事例として、Members Dayに行われたING BANKRone Kersic氏のレクチャーで紹介されたスクラム開発が挙げられます。

非常に印象的だったのは、それまでのプロダクトバックログは“feature driven”であったのが“problem driven”に変わったというチーム内でのリフレーミング。ソフトウエアのアジャイル開発で浸透している、スクラム開発のプロセス自体は変えずに、開発チームが取り組んでいることの意味の再定義に成功しました。それにより、これまではデザインシンキングで語られるところのダブルダイアモンド(※1)を、右から左に逆行していた、つまり開発チームがプロダクトに盛り込むことができるスペック(feature)をスプリントに実装していたのが、ユーザーに必要とされること、つまりユーザーにとっての問題解決になる機能から優先的に開発実装していくようになったというです。

この背景にはプロダクトオーナーがデザインチームと密にコミュニケーションをとり、フィージビリティー(技術面)やバイアビリティー(ビジネス面)だけでなく、デザイアビリティー(ユーザー視点)を加味した真のプロダクトバックログを実践できるようになったことが大きく影響していると語っていました。

※1 ダブルダイアモンド:2005年にイギリスのデザインカウンシルが著名なデザイン事務所に対して行った調査の中で、デザインプロセスを四つの段階〈Discover(発見)/Defince(定義)/Develop(開発)/Deliver(実現〉に分け、それぞれ発散的、収束的、発散的、収束的であることを示す二つのダイアモンド型で表現している。
参照:A study of the design process

 Less of doing the design for clients and more of teaching clients how to design.

クライアント企業とのコラボレーションによってデザインを実践しているインフォバーンとしては、エージェンシーサイドからの報告も大いに参考になりました。

SEB, Transformator Designのセッションでも語られていたように、クライアント組織の一機能を埋め合わせる代替可能なプラグインではなく、プロジェクトの推進要素として不可欠な機能を提供できるデザインエイジェンシーとなるためには多くのチャレンジを伴うようです。

BergeRomy van den Broek氏は、クライアントの製造業がサービスプロバイダーへとビジネスシフトするなかで生じた、摩擦や軋轢、使用言語の違いなどによる困難から得られた教訓を紹介しました。

クライアント組織の独自の文化にアダプトさせながら、サービスデザインへの理解を得て、協働できる環境を地道に構築してきた秘話がたくさん語られました。資料作成にデザイナーの代名詞とも言えるAdobeツール使用せず、パワーポイントを使用するようにしたといった表層的なものや、クライアント組織のヒエラルキー構造や政治を理解したうえで、サイロ間の潤滑油になってみるなど、クライアントチームの特徴に合わせて、具体的に行動し、サービスデザイナーとして根本的に不可欠な他者理解を実践していました。彼女が語った「サービスデザインは華やかなものではなく、地味で、ハードワークばかり(not flashy; it’s humble and hard work)」という言葉は、先に挙げたSpotifyKatie氏が伝えた“Service design is not magic”という言葉とも共通します。デザインという言葉がバズワード化している昨今、デザイン・プラクトティショナーとして、デザインの見方、デザインの実践を表現した言葉ではないでしょうか。

このように、エージェンシーのデザイナーに期待されることは、色、モノ、形をデザインすることにとどまらず、クライアントチームのチームビルディングを担うカタリストとして立ち回ることまで含んでいます。Lloyds Banking GroupMartin Dowson氏が挙げるように、クライアントサイドからの期待も「クライアントのためにデザインをするのではなく、クライアントがデザインできるようにクライアントを教育する(“Less of doing the design for clients and more of teaching clients how to design.”)」といった啓蒙活動を伴うチームビルディングにシフトしている傾向にあるようです。

Look Closer!”

この2日間のカンファレンスの最後を締めくくったのがアーティストのDominic Wilcox氏でした。サービスデザイのカンファレンスに、アーティストが、しかもクロージングキーノートを担当することに最初は違和感すら覚えましたが、彼の作品の制作プロセスは必然的な共創に基づいており、軽快かつ非常に優れたアイデアのオンパレードで、最後には会場からのスタンディングオベーションを誘っていました。それを見るまで、今年のカンファレンスは昨年と比較すると上手くまとまった小粒な発表が多いというのが個人的な印象でした。そんななか、Dominic氏のプレゼンテーションはデザイナーとして持ち続けなければならない「観察力」の重要性を、アーティスト的なユニークな視点と併せて提供してくれました。“Look closer”“Think opposite” “Look back”の手順で、対象を観察し、リフレーミングを施し、新たなパースペクティブの発見と現在との差異の比較をする行為は、アーティストとして教育を受け、実践を通じて養ってきた視点だからこそなせる技と感じました。

まとめ

今年のカンファレンスは具体的な実践の報告が多くなされました。去年に引き続き、共創環境を構築することの意義は大いに感じることができた一方で、その結果何が生まれるのか? その先にある成功はどのように測られるか? まだまだサービスデザインは実践の途上であるとも感じました。

今年のテーマ”Business as Unusual”は今後のサービスデザインの展開を考えると非常に示唆深い表現だと思います。サービスデザインは発展段階特有のダイナミズムがあります。まだまだ柔らかい状態である為、それ以上上手く使いこなすにはやはり地道な理解と実践が待ち構えているようです。一方でその柔らかさ故に、最適な定義をしていけるチャンスであることも事実だと思います。こうした意味からも、去年に引き続き、価値観の異なる多くのサービスデザイナーとの対話からサービスデザインを定義、実践していくうえでのノウハウや、インスピレーションを得られたことは大変有意義なことでした。そして、今後の私自身のデザイナーとしてのチャレンジにも効果的な進展をもたらしてくれるものと感じました。

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