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ジャーナリズムを殺すな ──日経のFT買収から考えるメディアの未来【前編】

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こんにちは。株式会社インフォバーンの谷古宇です。2015年9月1日ローンチ予定のデジタルマーケティング戦略情報メディア「DIGIDAY[日本版]」でプロデューサーを務めています。

今回創刊するDIGIDAY[日本版]の運営を通してわたしたちは、日本国内のデジタルマーケティング戦略に関する情報環境のレベルアップを図りながら、インフォバーングループ全体として提供するさまざまなデジタルマーケティング戦略サービスの質的向上に励んでいきたいと考えています。

ブランド企業にとって、経営戦略におけるデジタルマーケティングの重要性は年々高まっています。ブランド企業をマーケティング面から支援するメディアにとっても、ビジネスモデルのデジタルシフトは避けては通れない喫緊の課題です。

そんな状況を象徴するニュースが先日、世界中で報道されました。2015年7月24日、日本経済新聞社が英国のフィナンシャル・タイムズ・グループ(以下、FT)を8億4,400万ポンドで買収すると発表したのは皆さんもご存知のことと思います。

本稿ではこのニュースを報じた国内外の記事を手がかりに、日経をはじめとするニュースメディアの現状と今後の展開を考察します。

考察のポイントは以下の3点です。

(1)ジャーナリズムについて
 - 編集権の独立
 - メディアと財界との関係

(2)メディア業界について
 - メディア企業の再編成
 - メディアの定義

(3)ビジネスモデルについて
 - 買収による相乗効果
 - メディアビジネスのデジタルシフトとグローバル化

(1)ジャーナリズムについて──編集権の独立とは

7月24日の記者会見で日経の喜多恒雄会長は、FTの編集独立権に関する記者の質問に対し、「報道機関にとってもっとも重要な編集権の独立は維持する」とコメントしました(日本経済新聞、7月25日朝刊)。

喜多氏の言うとおり、“編集権の独立”は報道機関にとってもっとも重要な要素です。報道機関とは権力監視の最後の防波堤であり、民主主義の存続を左右する重要な存在であるゆえに、編集権は経営、つまり権力とは完全に独立していなくてはいけません。ですが、この民主主義の鉄則は時に権力の介入によって大きく捻じ曲げられます。

日経のFT買収報道で、記者たちの関心がFTの編集権の独立に集中したのは、ジャーナリズムにおけるそんな問題が常に記者たちの頭の片隅にあるからでしょう。ただ、ここで注意してほしいのは、問題の焦点はあくまで「FTの編集権の独立」であって、「日経の編集権の独立」ではなかった、という点です。

残念ながら日経は──少なくともFTほどには、編集権の独立が担保されている報道機関だとは認識されていません。それは日本人のみならず、いや、日本以外の国の人々の方が同社の日頃の報道姿勢を厳しく見ています。日本の財界および株式市場との密接な結びつきは、同社の報道機関としての姿勢に拭いがたい疑問を投げかける要因となっているのです(参考[1])。

参考[1]
FTのCEO、「日経の下でさらなる成長に期待」(全訳字幕付き)、日経ビジネスONLINE

 

【後編】にて、残る2つのポイントとともに、新しいメディアの誕生やデジタルシフトの重要性について考察していきます。

photo:Thinkstock / Getty Images

谷古宇浩司

1972年生まれ。株式会社インフォバーン DIGIDAY[日本版]プロデューサー/シニア・プランナー。株式会社BCNで情報技術専門の報道記者を務めた後、株式会社アットマーク・アイティ、アイティメディア株式会社で「ITmedia エンタープライズ」「ITmedia マーケティング」など情報技術専門Webメディアの編集・事業責任者を歴任。2015年、株式会社インフォバーン入社、現職。