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【海外】コロナ禍を逆手に取る、ブランドのコンテンツマーケティング成功事例

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2020年以降、マーケティング業界ではイベントや店舗といったリアルの場での施策が難しくなり、SNSやオウンドメディアなどオンラインでのデジタルにおける接点づくりがコンテンツマーケティングのキーポイントとなりました。世界中を巻き込んだこの大きな時代の流れにあって、人々はどのようなコンテンツや情報を欲したのでしょうか? 海外の事例をもとに、今後のコミュニケーションを見直してみませんか?

ホテルのレシピを惜しみなく提供。クッキーの味がホテル体験を想起させるトリガーに:DoubleTree

movie: Official Recipe: The Signature DoubleTree Chocolate Chip Cookie/Vimeo

ヒルトン・ホテルズ&リゾーツが経営するアメリカのホテルチェーン「DoubleTree」は、チェックイン時にゲストに手渡しするチョコチップクッキーが有名です。「DoubleTree」の代名詞としてこのクッキーは認知されており、旅行者は到着時にオーブンから取り出したばかりのチョコレートチップクッキーを受け取ることを楽しみにしています。

公式レシピは長年の間企業秘密となっていましたが、「DoubleTree」はこのコロナ禍で外出を控えるゲストのために、このクッキーのレシピを動画で公開することを決断しました。

Vimeoで去年の4月に公開されたこの動画は、約1年間でなんと83万回以上再生。ヒルトン・ホテルズ&リゾーツのグローバルブランド管理担当副社長であるショーン・マカティアはこう言います。

A warm chocolate chip cookie can’t solve everything, but it can bring a moment of comfort and happiness.

We hope families enjoy the fun of baking together during their time at home, and we look forward to welcoming all our guests with a warm DoubleTree cookie when travel resumes.

(温かいチョコレートチップクッキーはすべてを解決することはできませんが、それは快適さと幸せの瞬間をもたらすことができます。家族が家にいる間に一緒に焼く楽しみを楽しんでくれることを願っています。旅行が再開されたら、温かいダブルツリークッキーですべてのゲストをお迎えできることを楽しみにしています。)

 

リアルでの顧客体験がビジネスであったホテル業界は、いまだ苦境に立たされています。移動が制限されるなかで旅行に郷愁を覚える層や、家の中での生活に退屈しているファミリー層の気持ちに、うまく「ブランド資産」であったクッキーの存在をかけ合わせた施策を行い、旅行にいくなら「DoubleTree」というブランド想起に一役買った成功事例と言えるでしょう。

source:「For the First Time, DoubleTree by Hilton Reveals Official Chocolate Chip Cookie Recipe so Bakers Can Create the Warm, Welcoming Treat at Home」(https://newsroom.hilton.com/static-doubletree-reveals-cookie-recipe.htm

人工呼吸のオンライン講義という社会貢献をブランド認知に役立てる:Harvard University

Screenshot: Mechanical Ventilation for COVID-19/Harvard University

新型コロナウィルスに感染して、肺炎を発症する患者が増加するなか、医療の現場において機械式人工呼吸器の操作をサポートできる資格を持った医療専門家がより多く求められるようになっています。

パンデミック初期にこのことを見越したアメリカの名門私立大学・ハーバード大学は、新型コロナウィルス感染者のケアを行う医療スタッフを対象にした、人工呼吸に関するオンライン講義のシリーズを無料で公開しました。ICU(集中治療室)以外の臨床医がパンデミックの際に機械式人工呼吸器の操作をサポートできるよう、資格を持つ医療専門家が継続的にオンライン講義を更新しています。

マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立されたオンライン学習のプラットフォームedX.orgにて公開されたこのオンライン講座は、登録者数が17万人を突破。世界中の医療従事者の参考資料となりました。受講者数が多いことに加え、ディスカッションフォーラムに参加して知識やツールを共有することもでき、肺炎を発症した患者を治療するための貴重なツールとなっています。

企業やブランドが専門的な技術や知識を提供することは一見無謀なことのように見えますが、この事例は社会貢献がブランド認知の一助となることを証明しました。SDGsとブランド戦略においては今後も議論となるところですが、生活者が必要とする正しい情報を発信することにアドバンテージがあるのもまた、長年信頼を築いて来たブランドの強みなのではないでしょうか。

source: 「Mechanical Ventilation for COVID-19」(https://online-learning.harvard.edu/course/mechanical-ventilation-covid-19

迅速なメッセージ発信と一貫性のある施策がSNSで共感を獲得:NIKE

Image: Cristiano Ronaldo/Twitter

パンデミックの影響を受けてスポーツイベントは軒並み延期、もしくは中止に。プロモーションのチャンスを失い、店舗もクローズへと追い込まれたスポーツブランドは、トレーニングアプリやオンラインストアなどを通じて、自社のプロダクトがいかに人々の新しい生活様式に適応するかをアピールし始めています。

そんななか、「NIKE」はいち早く”Play inside, play for the world.”のメッセージをSNSで提供し始めました。

まずはワークアウト、トレーニングプログラム、専門家のアドバイスをストリーミングで提供する「Nike Training Club」アプリにフリーでアクセスできるようにし、室内で実践できるトレーニングや健康的な食事の動画など、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、この状況下でできるだけ健康的に、快適に過ごすためのコンテンツを提供。

そこに呼応するかのようにゴルファーのタイガー・ウッズやサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドなど著名アスリートの何人かは”Play inside”の様子をSNSで投稿して反響を呼んでいます

単に自社サービスの開放だけでは競合との比較に負けることもあるかもしれませんが、「NIKE」の成功のポイントは、それだけにとどまらずSNSをうまく利用してタイムリな-ブランドメッセージをアスリートらの共感とともに拡散させたことにあるでしょう。通常のマーケティング施策よりも、より生活者の心境に寄り添ったブランドに対する好感をさらに増幅させたに違いありません。

source: 「All The Ways Nike is Helping Athletes Play Inside — for the World」(https://news.nike.com/news/nike-play-inside-play-for-the-world

アウトドアギアを自宅で使うチャレンジに変換し興味を喚起:GoPro

movie: GoPro Awards: Introducing the #HomePro Challenge | Stay Creative/YouTube

アクションカメラの「GoPro」はUGC(ユーザー生成コンテンツ)キャンペーンを得意とするブランドです。今回のパンデミック下でも「#HomeProChallenge」と銘打って、ユーザーからGoPro製品で撮影した「自宅での冒険」の動画を募り、最もクリエイティブなビデオをソーシャルメディアに投稿した5名にGoPro製品が贈られました。

ステイホームが叫ばれるなか、アドベンチャースポーツのファンとつながることを目的としたこのキャンペーンはSNSを中心にバイラルを起こし、ブランドの評判を高めただけでなく、1日に何千人もの公式SNSフォロワーを獲得する成功を修めました

もともとアウトドアで使うことを想定された商品を、あえて家の中で使わせるというキャンペーンを行い「生活者に気づきと楽しみをあたえた」発想の転換が功を奏した施策と言えるでしょう。ブランドの持つ「冒険」というメッセージがあったからこそ、一貫したブランドイメージに寄与することができたのではないでしょうか。

Source: 「#HOMEPRO CHALLENGE: PUTTING OUR CONTENT WHERE OUR HOUSE IS」(https://gopro.com/en/us/news/homepro-gopro-award-challenge-launch

オンライン会議の背景画像でブランドの世界観をPR:BEHR Paint / West Elm

Image: BEHR Paint /Twitter

急激に広まったオンラインミーティングツール。まだこれらのツールに慣れない頃には、背景にパートナーやペットが映り込んでしまったり、生活感が丸出しになってしまったりなどのトラブルが多発しました。そんな状況にいち早く対応したのが建築塗料のサプライヤーである「BEHR Paint」とニューヨーク発のインテリアショップ「West Elm」。それぞれ、Zoomユーザーのためにバーチャル背景を無料公開しました。

BEHR Paintは、公式のTwitterアカウントのリンクからダウンロードして無料で使用できる「Behr Your Life」ライブラリを作成。

Image: West Elm Video Conference Backgrounds/WestElm

West Elmは、様々なデジタル背景をInstagramとホームページに掲載して誰でもダウンロードできるようにしました。ログキャビンや、モダンな家具が置かれた陽だまりのようなキッチン、スタイリッシュなリビングルームなどバリエーションあふれるバーチャル背景が揃っています。

Source: 「BEHR Virtual Background」(https://www.westelm.com/pages/features/zoom-virtual-backgrounds/), 「West Elm Video Conference Backgrounds」(https://www.westelm.com/pages/features/zoom-virtual-backgrounds/

家時間と店舗の接点を作る。気持ちを動かすコンテンツたち:Walmart, IKEA, MANGO

スーパーマーケットチェーンの「Walmart」は、コロナ禍でもエッセンシャルワーカーとして第一線で働く人たちへの敬意を示すために、Facebookページで自社の従業員が作成したコンテンツを配信。従業員がSNSなどで企業の情報を発信すること自体はそこまで画期的なことではありませんが、Walmartは世界最大級の企業であるがゆえに、さまざまなアプローチが考えられたなかでのその決断は重要なものでした。いまでもWalmartのFacebookページや広告には、従業員が作成した小ネタが多く掲載されています。

King Cakes, made by baking queens. Walmart Duluth associates are bringing out all the Mardi Gras stops with their cakes this year. 🥳

Walmartさんの投稿 2021年2月16日火曜日

Source: Walmart/Facebook

ソーシャルディスタンスが叫ばれるなか、私たちは家で過ごす時間がこれまでも長くなりました。スウェーデン発のインテリアメーカー「IKEA」はこのことをいち早く理解し、人々に家とのつながりを取り戻すことを促す「#StayHome」というキャンペーンを通じて、家にいることの楽しさを強調。このコンテンツマーケティング戦略は製品を直接宣伝するものではありませんが、このキャンペーンによりIKEAは現在のニーズを把握し、世間の感情に同調。ブランドのミッションに沿ったメッセージを構築することができました。

Movie: IKEA/YouTube

スペインのアパレルメーカー「Mango」は、Instagramチャンネルのユーザーを対象としたアコースティックコンサートのシリーズ「Mango Home Session」という取り組みを開始。これは、新しい才能を可視化し、Mangoが要擁するSNSのコミュニティを楽しませようとするものでした。

Image: Mango/Instagram

Source: THE MANGO HOME SESSIONS SERIES OF CONCERTS PRESENTS DJ ANDREW ARMSTRONG, SOPHIE AUSTER AND BASIA BULAT LIVE(https://press.mango.com/en/the-mango-home-sessions-series-of-concerts-presents-dj-andrew-armstrong-sophie-auster-and-basia-bulat-live_98542

世界が一つになった2020年。この共通体験にブランドを強くするヒントがあった

話題になったこれらの海外事例は、パンデミックというネガティブな状況に対し、華美で大掛かりな施策にせず生活者の気持ちに寄り添ったことが共通点。既存のブランドストーリーの延長線上で実行したのも勝因ではないでしょうか。テクノロジーよりも、インサイトを捉えたコンテンツのパワーを感じる施策が多かったように思えます。生活様式の変化が叫ばれる今後ですが、インサイトの変化を敏感に捉えた新しい施策やコンテンツがこれからも生まれていくことでしょう。

Illustration by Getty Images

EX Journal編集部

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