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花王・カネボウの、パーパスドリブンなブランドのつくり方【AWA2022レポート】

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当記事では2022年5月31日〜6月2日に開催された「Advertising Week Asia 2022」のキーノートセッション「パーパスドリブンなブランドづくり」の内容をお届けいたします。花王株式会社 常務執行役員 化粧品事業部門長 兼 株式会社カネボウ化粧品 代表取締役社長である村上 由泰氏のプレゼンテーションに続き、株式会社インフォバーン 代表取締役社長の田中準也が聞き手となりお話をうかがいました。2018年より個々のブランド強化を主目的として事業再編を行ってきた花王とカネボウ化粧品。どのようにパーパスドリブンの「尖った」ブランドづくりを行ったのでしょうか。
※村上氏のプレゼンテーション部分はダイジェストとなります

花王・カネボウ化粧品が「パーパスドリブン」になるまでの道のり

村上氏
花王株式会社 常務執行役員 化粧品事業部門長 兼 株式会社カネボウ化粧品 代表取締役社長 村上 由泰氏

村上氏のプレゼンテーションは第57回ギャラクシー賞(2020年) CM部門大賞を受賞した「I HOPE.」の動画から始まりました。これをみたユーザーからは「化粧は自信をもたらし、人生を大きく動かす力を持っている」などの称賛の声があったといいます。村上氏はこの動画に「パーパスドリブンなブランドづくり」が象徴されていると語りました。

村上氏のプレゼンテーションの様子

2018年、村上氏がカネボウ化粧品の代表取締役社長に就任してから目指したことは「個性が際立つブランド群に磨き上げ、アジア/欧州で成長を加速」させること。
この時掲げた
(1)グローバルポートフォリオ戦略
(2)国内における新たなブランド育成戦略
(3)事業運営体制の刷新
の三本柱のうち、「グローバルポートフォリオ戦略」について主に解説がなされました。

それまでは5つの事業体に49のブランドがひしめき合っていた花王・カネボウ化粧品。それを「G11(グローバルイレブン)」というグローバルで展開する11ブランドと、日本を中心に展開するR8(8ブランド)の19に絞り込みました。この活動は「非常にしびれる作業だった」と表現する村上氏。49ブランドそれぞれに取り組んでいたマーケターの情熱を理解しながらも、メーカーとユーザーの繋がりからブランドとユーザーのつながりに変えなければならないという信念のもと断行したそうです。

この時
(1)ブランドの原点がしっかりしているかどうか
(2)会社に利益をもたらすかどうか
(3)(G11に関して)グローバルでの拡張力があるか
この3つの視点で、ブランドの絞り込みを始め、パーパスの規定を「ブランドの原点”志”に立ち返る」をキーワードにやり直した、と村上氏は語ります。

村上氏のプレゼンテーションの様子

そこでは「ソーシャルポジショニング」、つまり世の中の動きであるサステナビリティであったり、 インクルーシブであったり、そういった視点をどう入れていくかも議論が行われました。その際、事例として紹介されたのは「KANEBO」というブランドでした。社名を背負ったばかりに、尖りきれず丸くなっていたといいます。そこで、「サッチャー元イギリス首相」を起用した1979年の広告を発掘し、村上氏はこのブランドの原点を見出します。1980年には女性の時代を宣言し、それから文芸の世界でも女流文芸を応援していたという事実から、元々「希望」を語って、強く生きる人を応援してきたというところに立ち帰った「KANEBO」ブランドは、クリエイティブの力を大いに借りながら冒頭の「I HOPE.」の動画を発表できるまでに至りました。

この「KANEBO」は、潤いを与えるだけでなく笑顔を創るというコンセプトのフェイスマスク「スマイルパフォーマー」をはじめとして、パーパスに基づいたユニークな商品を次々と提案しています。またもう一つの事例として、競争激しい口紅カテゴリ、そのなかでマスク着用前提のコロナ禍でヒットを叩き出したというKATEの「リップモンスター」を紹介。KATEは、25年間「NO MORE RULES.」というパーパスからブレることなく常に尖ったブランドであり続けていることは周知の事実です。

また、村上氏はその19のブランドという宝石を格納する箱、評して「宝石箱」とし「Kao Beauty Brands」を立ち上げ、19のブランドを磨くためにも、事業のパーパスを自ら作っていくということに注力していると語ります。その中でも非常にクリエイティブの力にブランド伝えたいメッセージがの伝達できることを実感しているという村上氏。最後に2022年制作の 「希望よ、動き出せ。」 の動画で、パーパスに基づいたブランドのメッセージが、クリエイティブによって感動的に増幅されていることを示し前半が終了しました。

https://www.youtube.com/watch?v=Bbq9jPV2aqQ
カネボウ KANEBO 「希望よ、動き出せ。」 CM(Kao Beauty Brands【official】)より

尖ったブランドづくり、それは「迎合しない」こと

田中準也(以下、田中):皆さんどうでしたか。このプレゼンテーションはステージをご一緒させていただく特権で事前に見ていたんですけれども、今日まで毎晩見てます。元気がもらえる。また、ちょっと涙が出ます。私は30年ぐらい広告業界にいるんですが、広告屋になってよかったなって思うぐらいのクリエイティブです。僕が作ったわけじゃないんですが、いろんな人たちが関わって作ってらっしゃって、クリエイティブの力っていうのを本当に感じさせていただきました。
さっそくいろいろお伺いしていきますが、2018年の「I HOPE.」の動画です。あれを社内で展開した時にどういう反応があったんでしょうか。

(左)株式会社インフォバーン 代表取締役社長 田中準也、(右)花王株式会社 常務執行役員 化粧品事業部門長 兼 株式会社カネボウ化粧品 代表取締役社長 村上 由泰氏
左:株式会社インフォバーン 代表取締役社長 田中準也

村上:そうですね、プレゼンテーションの中でお客さまからの声はさっきご紹介したんですけれどもすごい反響でした。ただ、私の想像以上だったのは社内の反応でした。社員、OB、OG。みんな言ってくれたんですよ。「ありがとう」って。

田中:「ありがとう」ですか。

村上:はい。元々リブランディングのキーになる動画として作ってるんですけど、 一方では正直インナーに向けた部分もありました。そこはしっかり伝わったんだなって感じましたね。2017年ごろは(業績が)厳しくて、私が社長になった時に「カネボウ大丈夫か」と随分叱咤激励をいただきました。私は、この歴史あるカネボウの想いを表現して宣言したいと思っていましたので、それが伝わったなと感じました。

田中:この4年間の取り組みのなか、まだゴールではないと思うんですけれども、事業再編をしてきた中でいろんな壁とか課題をどう乗り越えていかれたんですか。いっぱい(壁や課題が)ありそうですよね。

村上:そうですね、最初はやっぱりブランドの絞り込みですかね。なかなかしびれますよね。49から19ってことは30なくなるってことですよね。関わっていた方たちに「Why」、「なぜこれをやるのか」っていうことを伝えなくてはならない。強いブランドを作らなくてはいけない。時代が変わったんですね。

なぜ今まで49ものブランドがあったのかっていうのには理由があります。制度化粧品という売り方が日本にはありまして、チャネルごとにブランドを揃えてお客さまと絆を結んでいました。カネボウ化粧品のお店に行くと、カウンターにいっぱい商品やいろんなブランドがあって(店員がお客さまに合うブランドや商品を)選んでくれたんです。

これがインターネットの時代になって、お客さまは今まで受動的にアドバイスを受けてブランドを選んでたところから、自分で情報を取りに行くようになりました。そうすると自分の好きなブランドがすごくはっきりしてくるんですね、そうすると、もう待ったなしですよね。化粧品会社とお客さまの繋がりではなく、ブランドとお客さまのつながりに変えていかなきゃいけないし、 49ものブランドを磨こうとしても、なかなかそれはできません。儲からないブランドもいっぱいありましたし。

そこは1番最初の、大きな判断ではありましたね。

田中:なくなるであろうブランドのブランドマネージャーの方とか、研究に携わってる方の顔とかも思い浮かべながら、決断をしなきゃいけない。でもその志に意思を持って実行されたんだと思います。批判も覚悟されたんでしょうか。

村上:そうですね。ただ、やらないともっと大変なことになるので、いつかやらなければならないということだったと思います。

田中:その決断、私では絶対耐えられないと思うんですけども。(村上さん)メンタルがすごい強いですね。

村上:周りが、みんなが、支えてくれました。

田中:前半のプレゼンテーションでも出てきました。「尖ったブランドづくり」。社内の方に聞いても、よく村上さんが「尖ったブランドをつくれ」と日頃から言ってらっしゃるのをうかがったんですけれども、村上さんが考える「尖ったブランド」というのは、どういうふうにお考えになってますか。

村上:そうですね、パーパスがしっかりしてるってのは当然あると思うんですけれども、 言い換えると「非常に個性が強い」。もっと言うと「嫌いな人がいても100人中、熱狂的に好きな人が3人いてくれたらよい」というぐらい のイメージを私は持ってます。あと(ブランドづくりに)世の中の潮流とかを真ん中に持ってくるケースはトイレタリーなどであるのだと思いますが、化粧品だとそれをやってしまうとマス(向けの商品)になってしまうんですよね。ただ世の中の動きとか 潮流を理解した上で、ブランドの意思というのをどう出すのか、どう個性を出すかということを考えてやっています。 嫌われてもいいから、尖ってほしいと。

田中: それは普段のミーティングとかでも言われてるんですか。

村上:そうですね、伝えているつもりです。

田中: 迎合しない。でも、文脈も読まなきゃいけない。特に今は新型コロナウイルス感染症が問題になっていますし、社会状況がすごく不安定な中でそういう気持ちも組み取ってそこに価値提案してるというか、「新しい問い」を立ててるような、ブランドの魂を感じます。

村上:まさにおっしゃった通り「迎合しない」。そうじゃないとその存在する理由がないですよね。だから、 さっきのスライドでも「存在意義」って書いていました。今パーパスが流行っていますが、私がずっと昔から使ってた言葉は実は「存在意義」なんですね。最近それが素敵な言葉になったなと思っています。

田中:「迎合しない」っていうのは本当に「言うは易し」で、すごく難しいなとは思います。ですが、使ってみたくなるブランドというのは、そんなブランドの意思が言葉になっている、可視化されている。さらにそれが使用したユーザーからブランドにフィードバックされていくのがいいですよね。

村上:たまらないですね。

「この指とまれ」で、共創を生み出していく

田中:この4年間でさまざまなパートナー企業の方と歩みがあったと思うんですけども、例えばエージェンシーさんなどとはどういう共創をされてきたのか、信念や進め方みたいなところでヒントがあればと。

村上:今日、ブランドパーパス中心にお話したんですけど、事業パーパスは当然私が中心でやらなければならない。だから「なぜカネボウ化粧品って存在するのか」とか、「花王が化粧品事業を行う意味はあるのか」っていうことを、私は問い続けなければいけない立場です。ひとりでやると結構きついんですけど、それはパートナーのみなさんに支えてもらわないとできない。さっきのクリエイティブはまさにそうだと思うんですよね。だから「私が何をやりたいんだ」ってことをしっかりと伝えています。私がよく言うのは「この指とまれ」です。アウトプットしたいと思ったら、 「この指とまれ」がすごくしっかりしてないと、人は集まらないと思うんです。だからサステナビリティもそうですけど、ひとりじゃできないし、いろいろな会社さんとも組む形になってきてますよね。ブランド作りもパートナーのみなさんと一緒にやっている、そういう気持ちでやってます。

村上氏

田中:「この指とまれ」って、ものすごい責任を伴うじゃないですか。その中で自分に対しても「常に何をしたいんだ」「カネボウはどうなりたいんだ」っていうのを問い続けながらも、パートナー企業の方とも議論し続けられたと思うんですけど、どんな議論があったんでしょうか。

村上: 私の持論は「いいアウトプットができるときは、徹底的に責められる、聞かれる」ということ。もちろんブリーフィングはとても大事で、100点のブリーフィングをしたいと思ってますけど、曖昧に動かず、パートナーに徹底的に突っ込んでもらった方が、いいアウトプットは出るなと思いますね。やっぱりWhyって大事だなって思います。

田中:例えば、パートナーの方から「なぜこうやるんですか」「なぜ、そうお考えなんですか」って聞かれた方がより尖っていくし、シェープされていくということなんでしょうね。

村上:自分の考えが整理されますよね。

田中:ただ、ずっと考えるって、24時間できちゃうじゃないですか。働き方とかも考えるとどこかで区切りをつけなきゃいけないから、マネジメントとしてもそのバランスは大変そうですね。

村上:まあ、ほどほどに(笑)

クリエイティブの力があれば、日本を、世界を動かせる

田中:花王・カネボウ化粧品のブランドづくりは、これからだと思います。経営のトップとして事業会社・パートナー問わず、エールをいただけないでしょうか。

村上:今日は、マーケティングとか広告に関わるみなさんが多いと思うんですね。ですが、その視点で少しだけお話すると私はやっぱり「クリエイティブの力、恐るべし」と思ってまして。

村上氏

志をもってビジョンを描いてチームを引っ張っていきたいとき、そしてステークホルダーも連れて行きたいときは、私はクリエイティブの力を借りることにしています。

口頭や資料だとどうしても限界があります。1枚の絵でいいと思うんですけど。 それがあることで圧倒的にプレゼンテーションは強くなって、人の心を揺さぶることができると思っています。とにかくクリエイティブをうまく使って、10枚の資料で10分説明されるより、 1枚のキービジュアルやキーコピー見せればそれで伝わるじゃないですか。

それからプレゼンテーションの最後の方で、世界の人の顔が写っている写真があったじゃないですか、 あれ、すごく私好きなんです。実は広告代理店さんのクリエイティブディレクターの方が頑張ってくれたんですけど、私がやりたいことを世界中のさまざまなルートでクリエイターの人に声をかけてくれて現地ですごい素敵な写真を撮ってくれて。さらに使っていいよといってくれたんです。これこそ「この指とまれ」だと思うんですけど、 やりたいことに共感してくれたら、世界が動くんだなって。

田中:壁を越えて。

村上:そうですね、クリエイティブの力で世界中のクリエイターと繋がりができたんです。サステナビリティもそうですけど、「こんなことやろうよ」といったら、ちゃんと変えられるんじゃないですかね。

田中:スピード感もありますしね。

村上:ありますね。最後に整理するとやっぱりクリエイティブの力ってすごくて、クリエイティブに関わるみなさんがこの力を信じれば、日本を元気にしたり、世界を変えられるぐらいまでできると思います。ぜひ一緒に、日本を元気にしましょう、と。

田中:ありがとうございます。(前半のプレゼンテーションで)宝石箱の例えがありましたけれど、村上さんにとってはブランドもお客さまも従業員の方も、みんな宝石箱に入れるような宝石に見えているんだと思います。 勇気をもらえるプレゼンテーションとお話、ありがとうございました。

村上:ありがとうございました。

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。