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すべてに“エシカル”なファッション産業をめざして【「ESG SUMMIT 2022」パネルディスカッション】

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株式会社ジェネシア・ベンチャーズが主催するオフラインイベント「ESG Summit 2022~イノベーションによるESGの新潮流~」が、2022年11月28日に開催されました。

ESG投資を含め、ベンチャーキャピタル事業を展開されるジェネシア・ベンチャーズが初めて開催した同イベントでは、「イノベーションによるESGの加速」をテーマに、基調講演と3つのパネルディスカッションが行われました。(参考URL:https://www.genesiaventures.com/esg-summit-2022/

その中から、インフォバーン代表取締役会長である小林弘人がファシリテーターを務め、株式会社TSIホールディングスでSDGs推進室長 兼 広報・IR室長を担う山田耕平氏、株式会社フードリボン代表取締役社長・宇田悦子氏が登壇されたパネルディスカッション「循環型経済のエコシステム形成」の模様をお伝えします。

※読みやすさを考慮し、発言の内容を編集しております。


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再利用できない糸も「板」に変える「Wサーキュラー」の仕組み

小林弘人(以下、小林):みなさん、こんにちは。このセッションのテーマは、「循環型経済のエコシステム形成」です。
循環型や再生型など、いろんな言葉が使われますが、それらを包含する意味で「サーキュラーエコノミー」という言葉を使おうかと思います。その理由も後ほどご説明したいと思います。
ここに来ていただいたお二方は、まさにサーキュラーエコノミーのプレイヤーに当たります。「フードリボン」の宇田悦子さん、そして大手アパレル企業であり、サーキュラーエコノミーのためにさまざまな企業と連携されている「TSIホールディングス」の山田耕平さんをお招きしまして、お話をうかがいます。

まず最初に、なぜ私がファシリテーターとして、ここに登壇しているのか。簡単に自己紹介をさせていただきます。

私が代表取締役会長を務める株式会社インフォバーンは、25年ほど前に起業した会社で、企業や自治体のデジタル・コミュニケーション全般、特にオウンドメディアと呼ばれる自社メディア運用に関するお手伝いをしています。また、イノベーションや新規事業の創出支援もしています。
ほかにも、オンラインメディアの「GIZMODO Japan」などを運営している株式会社メディアジーンの取締役も兼ねておりまして、ミレニアル世代に向けたニュース・メディアである「Business Insider Japan」の発行人でもあります。

海外との関わりでは、ドイツのベルリン市で毎年開催されている「TOA(Tech Open Air)」の日本公式パートナーもしております。これは全世界から2万人が集まるテクノロジー・カンファレンスで、私たちは2017年から日本企業や自治体の方をお連れして、独自の視察プログラムも組んで、欧州におけるイノベーションがサーキュラーエコノミーのみならず、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)など、さまざまな社会課題解決と向き合っていることを腹落ちしていただくための機会を設けています。

EUではでは2015年に「サーキュラーエコノミー行動計画(循環型経済行動計画/Circular Economy Action Plan))」が発表され、その後の2020年に「新サーキュラーエコノミー行動計画」としてアップデートしたうえで法制化されています。EUでは、これに基づいて新たな経済構造で世界を先導しようということになりました。
そんなEUにおいて、ベルリン市はサーキュラーエコノミーと強い接点があります。我々が企画する視察プログラムのアテンドに私自身もご一緒し、サーキュラーエコノミーのハブとなっている拠点、あるいは町全体をそうしたコンセプトでつくろうとしている場所に、さまざまな方々をお連れしております。

また、「GREEN SHIFT」というコミュニティ・ハブをちょうど2年前に立ち上げました。企業と自治体、市民が一緒になって、サーキュラーエコノミーでイノベーションを起こす。それによって社会課題を解決していく。そうした目的に向け、実践していく場です。

これまでに、千葉県木更津市に音楽プロデューサーの小林武史さんがつくられました、「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」という、再生型農業をやられているフィールドをメインにしたり、昨年は長野県の駒ケ根市に、北は北海道から南は九州まで、日本中のサーキュラーエコノミーに関わるプレイヤーの方が集まって、非常に熱いセッションを繰り広げていただいたりしています。
長野県白馬村では「GREEN WORK HAKUBA」という、サーキュラーエコノミーのラーニングとネットワーキングを促進しているイベントがありまして、これまでに4回行われているのですが、最初のコンセプト・メイキングやプログラム・プロデューサーを務めさせていただきました。
ほかにも自治体とは仕事をいろいろと行っておりまして、長野県の信州ITバレー構想のアンバサダーも務めています。

▲パネルディスカッション中の小林弘人の様子

今日はお二人からいろいろなお話をうかがえることを楽しみにしております。
それでは、まずは山田さんから自己紹介をお願いします。

山田耕平(以下、山田):株式会社TSIホールディングスの山田耕平と申します。今日はよろしくお願いいたします。私自身は、ずっと広報を中心に仕事をしてきまして、IRの仕事を通じてESGにも携わるようになりました。実はSDGsに関する部署ができたのは昨年からで、まだ1年がちょうど経ったばかりというところです。

「TSIホールディングス」に馴染みのない方もいらっしゃると思いますが、もともとは「東京スタイル」と「サンエーインターナショナル」というアパレル会社が経営統合してできた会社です。現在は創立して12年目に入っています。

いまは4つの事業領域に分けておりまして、そのブランドの紹介を簡単にさせていただきます。
まず、ウェルネス&ライフスタイル事業として、スポーツ部門では「パーリーゲイツ」や「ニューバランスゴルフ」、ライフスタイル部門としては「マーガレット・ハウエル」「サンスペル」「アンドワンダー」といった、洋服だけではないところにも訴求するブランドがこちらになります。
次はストリート&カルチャー事業です。最近はトップガンで少し話題になりました「アヴィレックス」や、「ステューシー」「ナノ・ユニバース」「エルエイチピー」など、とんがったブランドが多いのが特徴です。
ファッションキャピタル事業というのには、レディースの代表的なブランド群が入っているもので、ブランド数として最も多くなっています。
最後はデジタルジェネレーション事業で、Z世代に向けるようなブランディング展開を志向しているものです。

TSIホールディングス公式サイトより転載。展開されているブランドの一部。

「サーキュラーエコノミー」に関して、われわれの取り組みを紹介させていただくと、基本的には、「商品をなるべく捨てないようにする」ことから始めました。製品自体を捨てないようには前々からしてきたんですが、どうしてもB品(※品質が劣る商品、不良品)や売れないものは出てきてしまいます。それでも、その課題解決のために、まずできるところからやっていこうと、取り組みをしています。

いまの日本の技術だと、コットン100%のものを新しい素材、たとえばポリエステル100%に替えるといったことが中心なのが現状でして、回収した衣服を固形燃料にして、リサイクルするような取り組みもしてきたんですが、それはそれでCO2の排出量が増えるという課題もあります。

そんななかで、うちの有効なスキームになっているものとして、繊維育英会との取り組みがあります。紡績糸として再生利用できる綿100%の衣服は再生コットンにして、それ以外のものについては成形してリサイクルボードという「板」にするという取り組みです。
そうした技術を持っている会社と連携して、糸にできるものは糸に、そうでないものはボードにすることで、「Wサーキュラー」の仕組みを築きながら、一緒に「サーキュラーエコノミー」を促進しています。

そうしてつくった板自体は、床材、壁材、天井材にも使えるものですし、雑貨として再利用するといった用途もあるので、かなりいろいろと活用することができます。
内装の会社もうちのグループ企業にあるので、自社の中でうまく回していけるように、本棚をつくったり、店頭のディスプレイをつくったり、ハンガーにも使ったりと、まずは身近なところから使い始めています。

コットンについてはまだまだこれから、というのが実情なんですけど、回収したコットンをまた紡績して、布にしていくことに取り組んでいますね。

パイナップルの葉っぱから「天然繊維」をつくる

小林:ありがとうございます。それでは宇田さん、お願いします。

宇田悦子(以下、宇田):株式会社フードリボン代表の宇田悦子と申します。弊社は創業してから5年目の会社でして、もともとは農業支援などを通して、「捨てられていたものを生まれ変わらせる」ということをめざして、「フードリボン」を立ち上げました。「生産者と消費者をはじめ、すべての関係者をつなぐリボンになる」というのが、会社名の由来です。

フードリボン公式サイトより転載。トップページの画像。

本社は、沖縄県那覇市から北に車で1時間半ほどのところにある、「大宜味村」という村にあります。ここは昨年、世界自然遺産に登録されまして、まさに生物多様性がある、1億年前からの植物が生きている場所で、活動しております。

もともとこの土地との縁は、シークヮーサーの搾り滓(かす)を活用しようと事業をスタートさせたことから始まりました。事業をしていくなかで、山間にあるシークヮーサー畑の農家さんとか、地域の「おじい」「おばあ」との出会いが、人生の転機となりました。
特におばあから教わった「かふうあらしみそーれ、とぅくとぅみそーれ」という言葉は、島言葉で「あなたに幸せが訪れますように」「徳を積む=良いことをしようね」という意味があって、私たちの原点、フードリボンのパーパスやビジョンになっています。

この大宜味村の隣には、日本一のパイナップル生産量を誇る「東村(ひがしそん)」という村があります。大宜味村で事業を展開しているうちに、そこの村長さんから、「シークヮーサーの次は、パイナップルでも事業をやってくれないか」というお話をいただきまして、それをきっかけに、パイナップルの葉っぱから繊維が取れることに着目するようになりました。
実はパイナップルの葉っぱや、バナナの茎から取れる繊維の量は、かなり大量にありまして、全世界のコットン生産量に匹敵するほどの繊維量が、この二つを合わせると得られます。ここに、「持続可能な天然繊維」の可能性が秘められています。

それから、パイナップルの葉っぱを機械に入れると、繊維となって出てくる機械を新たに開発することができまして、これが私たちのコアとなる技術になっています。
従来の長い工程をカットすることができて、生産効率アップと品質向上を同時に達成することができました。非常にコンパクトな機械を開発することができたので、いままでは遠くの工場に葉っぱや茎を運んでいたところから、畑の真ん中が工場になって、繊維の状態にしてから運ぶことができるようになりまして、大きく原価コストを削減することにつながりました。

フードリボン公式サイトより転載。パイナップルの葉から生地ができるまで。

さらに、この技術を社会課題解決のビジネスに役立てたいと考えまして、農家さんに登録いただいたら、無償で機械を貸し出し、最終的には繊維重量に応じて農家さんにダイレクトにお支払する、というビジネスモデルをつくりました。
農家所得の向上にもつながるビジネスとして、沖縄からこの技術を東南アジア諸国に発信していきたいと考えています。

この繊維開発によって生まれる価値というのは、大きく二つあります。
まずは、生産背景が見える繊維素材であるということ。コットンの製造には児童労働などの問題がありますが、この繊維素材にはもちろん、そうした問題はありません。環境配慮としても、すでにある食物を育てている畑から得られる繊維資源なので、環境負荷が少なくなります。
もう一つは、高級繊維素材になりうる可能性を秘めていることです。パイナップルの繊維というのは、昔から手作業で使用されることはありまして、フィリピンでは「ピーニャ」という伝統産業があります。これには、王室の献上品としても扱われるような高級素材だったという歴史がありまして、今後開発していくなかでは、非常に細くて美しい繊維素材となりえます。

エビデンスを持ちながら、伝統と新しいテクノロジーを融合させることで、こうした新たな価値を生み出せるのではないか。「ファーマーズ・テキスタイル」として、農家さんから繊維を得て、それを生産者に還元しながら環境負荷も削減するという新しい繊維素材を、世界のファッション産業に届けていくことをめざして活動しております。

しかも、こういった農業資源から繊維を抽出したときに残渣として、葉肉部分が多く出てくるんですけど、その葉肉部分も余すことなく使って、生分解性材料としてバイオプラスチックや紙素材へと、原材料を活用していくことができます。
つくって売っておしまい、ではなくて、それを回収し、循環するところまで実現したいと思っています。そのためには、1社だけの取り組みではなかなか難しいので、天然繊維循環国際協会という団体を発起人として立ち上げました。業界の方に――ファッション業界だけでなく工業界や農業界にも――横断的に声をかけて、賛同いただける企業様と一緒に運営しております。
こういった形で、全体で循環させていくビジネスモデルを国際的に展開していこうとしています。

フードリボンの考え方としては、3つの方向性があります。
環境負荷の少ない素材100%で、使い勝手のよい製品を開発していくという、研究開発をたゆまずしていくことがまず一つ。
もう一つは、環境負荷が少ない材料を、少しでも既存の材料であるコットンやバイオプラスチックといった基材に混ぜていくことで、より環境負荷が少ないものの使用量にスケール感を生んで広めていくこと。
最後に、消費者の環境意識を高めて、ちょっとくらい使い勝手が悪かったり、少しくらい高かったりしても、使いたいと思ってもらえるように、消費者の意識を変革していく活動も、協会を通じて同時に行っていくことです。

事業展開については、こういった資源から天然繊維を抽出する技術を日本から世界に発信していき、天然繊維産業の創出拠点を沖縄につくりたいと思っております。
「ネイチャー・ピポット」をテーマに掲げ、片足の軸は自然に置きながら、もう片足は新たなテクノロジーに置いて、世界に発信していくという考え方のもと、大宜味村の村有地、14ヘクタールの場所に、観光と産業と教育、この3つを包括する機関やコミュニティを沖縄につくっていきたいです。そうすれば、新たな雇用が生み出せて、シングルマザーの収入の低さや子どもの貧困といった課題解決に結び付けていけると考えています。

具体的な世界への発信として、いま取り組んでいるのはアジア諸国への発信です。先日、台湾とインドネシアに行ってきたんですが、政府と連携して、東南アジア諸国にある広大なパイナップル畑、バナナ畑に導入してもらうことで、各地の農家の所得向上も約束していただける体制をつくっていっています。
世界に向けて、日本の技術、沖縄の技術を発信していく。そして、捨てるものがない未来を、子どもたちの未来につなげていく。その想いを胸に活動を続けております。以上となります。

たった1社では難しくても、協力・連携すれば実現できる

小林:宇田さん、ありがとうございました。先ほど控室でうかがったんですが、ぼくはてっきり、宇田さんは沖縄県出身なんだと思っていたら、実はそうじゃないんですよね。

宇田:はい、神奈川県の出身です。

小林:そこがすごいなと思うんですけど、いまは沖縄に本社を構えられて、事業を展開されていますよね。そもそもこの事業を始めるきっかけは、なんだったのでしょうか。

宇田:最初から「農産資源を有効活用する」という方針は立てていたのですが、当初は関東を拠点にして、全国各地の農産物を手がけるという企画からスタートしていました。そのなかの一つにシークヮーサーという産物がありまして、それから地域の方たちとの出会いを通じて、この活動を本格的にやりたいと思うようになったんです。
その場所で教わったこと、理念をしっかりと事業に反映していきたいと、本社も沖縄に移して、私自身も子どもたちと一緒に移住して、事業活動をスタートしたという経緯になります。

小林:なるほど。世界中の事例を見渡しても、南国特有のフルーツ、そこの農業残渣(ざんさ)を再生していくというのは非常にユニークだと思います。やはりシークヮーサーとの出合いが大きかったんですね。

宇田:そうですね。原点です。

小林:そのなかで、サーキュラーエコノミーのエコシステムを構築することを、たった1社で実現するのは確かに難しい。まずは農家の方、それからハードウェアを製造する会社、今日いらっしゃっているTSIホールディングスさんもそうですが、どういうふうに連携を構築してきたのか。その苦労や乗り越えるためのヒントがあったら、教えていただけないでしょうか。

宇田:はい。いろいろと課題は山積みだったんですが、その中でも二つ大きな課題を挙げると、一つはパイナップルやバナナという身近なものから繊維を取り出して、モノづくりにつなげていく考えを伝えても、どうしても一部の小さな取り組みとしてとらえられてしまうところがありました。「こういう仕組みで、循環していく」と説明しても、そのことでどれくらい社会に影響を与えられるのかが、なかなか伝わらなくて、そこが課題としてありました。

そこから「天然繊維」という大きな枠組みで考えることで、非常に大きな市場があることに気づきました。事例としてヒントになったのは、化学繊維です。
衣服の繊維を構成している素材は、二分すると天然繊維と化学繊維に分かれるんですが、化学繊維に関しては、ポリエステルやペットボトルのリサイクルなど、いろんな取り組みが先行事例としてありました。日本の大手商社さんの取り組みなど、いくつか有名な事例も思い浮かぶと思います。

一方で、天然繊維に関しては、それに比肩するような大きな取り組みが、探してもあまりなかったんですね。
天然繊維の多くを占めるのはコットンですが、天然繊維の本質的な課題を考えていくと、捨てられているものを循環させきれていないこと以上に、コットンの生産背景にこそ大きな課題があることに気づきました。たとえば、農業の中でも農薬の使用量が、コットンはナンバーワンなんです。しかも、コットン100%のTシャツの製造には、2700リットルもの水が使用されています。そうした製造過程には、児童労働といった問題もある。
こうした本質的な課題に対して、素材をパイナップルやバナナの繊維に10%でも20%でも置き換えることができたら、もともと食べ物を育てている畑に繊維資源があるわけですから、少しずつでも解決することに直結します。そこにポイントがございました。

もう一つは、技術的な面です。従来の植物から繊維を取り出す技術自体は、実は20年以上前からあったんですが、大量に流通するものにはなっていないという課題を解決する必要がありました。
だから、技術開発の専門家の方たちにゼロから声をかけて、協力をあおいで、仲間に入っていただきました。そうして無事に開発を進めることができて、従来の品質やコストの問題を機械開発によって解決できたことが、課題を乗り越える要因になりました。

▲パネルディスカッション中の宇田悦子氏の様子。

小林:ありがとうございます。それでは、もう一方で、大手アパレル企業のTSIホールディングスの山田さんに、なぜフードリボンさんと連携をしようと思ったのか、そのきっかけをお尋ねしたいです。
業界全体として、たとえばフランスでは「循環経済法」が制定されて、売れ残ったものを廃棄してはいけないという罰則規定ができましたよね。世界的に廃棄問題に対する視線が厳しくなっている潮流は、重々理解はしているんですが、そのなかでも「フードリボンさんと一緒に」となった決め手をぜひ教えてください。

山田:われわれアパレル業界はの排出量として、Scope3(※原材料や輸送・配送、製品の廃棄などに関する間接排出)と言われている、特に原材料に関する部分では、8割から9割を占めると言われています。それを大きく解決する方法としては、3つほどあります。
まずは、無駄なものをつくらない。それから、なるべく再生可能なエネルギーに切り替えてモノをつくる。もう一つが環境負荷が少ない素材に切り替えていく。大きく言うと、この3つが現在は考えられています。

先ほど、宇田さんのお話にあったように、ポリエステルをペットボトル由来のモノに切り替えたり、コットンをオーガニックコットンに変えたり、現在の技術でもできることはいくつかあるんですが、それらを積み上げても、根本的な解決にはつながらないという認識が、われわれ衣料業界にはございます。
やはり、いまの世の中にはないけれど、新しい技術を開発して、CO2排出量や生物多様性に配慮するモノをつくらないといけない。こうしたニーズがかなり強いことが、背景にはございます。

われわれのような小売企業、アパレル企業が、川上である素材まで考えるというのは、最初はピンとこなかったんですが、そうした背景のなかで現状からゼロベースで考えると、いちアパレルとしても取り組まないといけない、という認識はもともとしていました。
そのなかで、先ほどおっしゃっていた「天然繊維循環国際協会」というのを宇田さんが立ち上げられたときに、縁あってわれわれの取締役もそこに参加をさせていただいて、宇田さんと知り合いました。

バナナの繊維はわれわれのブランドでも、20、30年前から、コレクション・ブランドで特殊な光沢を出すときなどに使ってはいたんですが、量産化はすごくハードルが高かったんですね。だから、コレクション・モデルの一部に使用するという限定的な使い方しかできなかったんですけど、宇田さんは技術開発によってこの量産化をめざしていくという。その視点のすばらしさと、技術的な部分に対して、面白いと感じました。
それと宇田さんから直接、話を聞かせていただいたときに、素材の解決にとどまらない、他の社会課題解決も合わせて取り組むんだという思想や情熱に惹かれました。宇田さんには愛と夢があるんですね。そこが一緒にやらせていただきたいという、いちばんの決め手になりました。

変わりゆく「ブランド」の意味合い

小林:なるほど。大量生産に向けた両社の計画として、われわれの目にもわかる成果が出てくるのは、いつくらいになるんでしょうか。

宇田:新開発した機械を、実際に広大な畑のある東南アジアに持っていくことは、年明けを予定しております。政府との連携は取りつけた状態ですので、来年には開始していきます。

小林:すばらしいですね。TSIホールディングスさんとしては、新規のブランドも立ち上げるつもりですか。

山田:最終的にはそういう可能性も十分にあると思います。まずは糸や布が出来た時点で、コミュニケーションを取りながら、具体的にどんな形で取り組めるのか、具体化していく予定です。それは来年以降になるとは思いますが、現場で話すとみんな興味を持って、「早くその素材を見せてくれ」という声が多く上がっていますね。

小林:これは楽しみですね。早く見てみたいという気持ちになります。

宇田:すでに繊維のサンプルや生地はできているんですが、要望に応えられるくらいの量を生産できる体制が整うのは、来年以降なので、ファッション業界に出るには時間が1年、2年はかかるかなと思っています。

小林:そうですか。もう一つ、宇田さんにおうかがいします。
今日は、サーキュラーエコノミーに関わる事業を実践されているベンチャーの方もいらっしゃています。先輩として、事業を展開するためのコツ、心がけ、重要な要素、もちろんコンセプトやパッションもそうだと思いますが、何かアドバイスをひと言お願いします。

宇田:先輩だなんて、おこがましいんですけど(笑)。「社会にどれくらいインパクトを与えられるか」を、本気で追求して考えているところはあります。
大きな入口と出口をとらえて、そこに向けてインパクトがあることをするためには何が足りないのか。それを考え抜いて、必要な人材とか、必要なノウハウとかを外部の方に熱心に伝えて、協力を取り付けていくことが必要だということは、身をもって実感しています。

小林:なるほど。今度は山田さんにおうかがいしたいんですが、先ほどZ世代向けのブランドも手がけられているというお話がありました。「サーキュラーエコノミー」をコアのコンセプトにしたブランドというのは、Z世代の支持を受けると思うんですが、やはりそのように見られていますか。

山田:そうですね。2021年に環境省が消費者向けに大規模なアンケートを取っていて、「サステナブル・ファッションに興味がありますか?」という質問だったんですけど、6割の人が「関心はある」という回答でした。
ただ、「具体的に何をやっているか?」という質問に対しては、「なるべく長く着られる服を買う」というのが1位で、具体的なアクションにはなかなかつながっていないという実態がありました。

他方で、若い世代の方たちは購買の仕方に変化があって、ネットで売ることができる、二次流通に乗せる価値のあるものを買う、という志向がかなり強くなっていることを、現場レベルで体感しています。逆に、単純に「環境負荷が低い素材を使っている」という理由だけでモノが売れるかというと、まだそこまではいっていないのが日本の現状ですね。
日本以外の国、たとえばイギリスのブランドである「マーガレット・ハウエル」の現地の話を聞くと、お客様から「この洋服を着ることで、どれだけ環境に貢献できるのか、具体的に説明してほしい」と言われるそうです。そのあたり、日本と海外でだいぶ差があることも実感しています。

小林:すでに海外では「ブランド」の意味合いが、ちょっと変わってきていますよね。
昔はキラキラしてゴージャス、そしてクリエイティビティに富む感じが「ブランド」のイメージとしてありましたが、いまは「地球環境まで考えているかどうか」が、「新しいブランドの価値」になりつつあるという実感があります。

山田:そうですね。おっしゃる通りです。その価値が具体的な形になったり、カッコいいと思ってもらえる形で提供できたときに、一気に進んでいくんじゃないかと思いますね。

▲パネルディスカッション中の山田耕平氏の様子。

小林:製造過程でめちゃくちゃ水を汚したり、環境を汚染しながら生み出されていたりして、でも安いから、消費者としてはそっちを買ってしまう。そうした消費者の購買心理が変わっていって、ちょっと高くても、環境配慮がなされたこっちを買おう、という流れは生み出せるものでしょうか。
先日、とあるグローバルなコンサル会社の調査資料を見せていただきました。その結果を引き合いに出すと、日本だけ突出してサステナブルな製品に対して高い価格を支払うという意識は低かったと記憶しています。その流れを変えることはできるのでしょうか。意地悪な質問ですが、まずは宇田さんにおうかがいいたします。

宇田:私たちだけではできないところで、まさにTSIさんのような「カッコいいものをつくれる」プロフェッショナルな方と組むことが大切だと思っていて、そうした方に対して、私たちは、環境に優しい素材を提供する役目だと思っています。
透明性を持って、どこの誰がつくったのか、どれくらいのエネルギー量でつくられているのかまで明示できるように、下準備をしっかりとしていきます。これから新しく構築するビジネスなので、ゼロからスタートできる強みもありますし、そこが求められていると思います。

国連でも、環境汚染産業第2位としてファッション産業が上げられていますが、そうしたくてそうなっているわけでは絶対にないんですよね。やっぱり、ちょっとでも良いもの、カッコいいものを届けたいという想いでやっていらっしゃる。
だから、アパレルメーカーのそうした方たちに、素材の背景がしっかりしたものを届けることさえできれば、消費者の方にどう響かせるかについてはプロフェッショナルな方々なので、一緒に考えながら進めていけると思っています。

小林:なるほど。次の質問は、今回の主催者が投資会社ということもあり、宇田さんに絶対に聞いてほしいことだと思うのでおうかがいしますね。サーキュラーエコノミーを担うベンチャー企業として、投資家や金融機関、行政に対して期待すること、要望することはありますか?

宇田:そうですね。資金調達というのは、大きな課題の一つですね。「ベンチャー企業は信用がない」という問題が、やはりあるんですよ。フードリボンは創業から間もないですし、研究開発の期間が長くて売上も利益もあまり上がっていない状態でしたので、どうやって資金調達をするかというのは悩みでした。

それでも、計画として入口と出口がきちんと見えていて、機械やテクノロジーによって実行できることの担保もしっかりある。そうした条件が整ったときに、プロジェクト・ファイナンスで資金調達ができる可能性があるんじゃないかと考えています。実際に、あるリース会社さんから、そうしたお話をいただいています。

もう一つは、製造拠点についてです。日本は天然繊維の原材料があって、かつては紡績も豊富に行われ、紡績技術では世界トップだったんですね。その時代の技術者たちは、引退されてもまだご存命でいらっしゃいますが、どんどん衰退して海外に製造が逃げてしまっているんです。
その製造拠点を再度、沖縄につくりたいと思っています。技術のノウハウをもう一回集結して、日本のモノづくりをもう一度興していく。これから数年間で、沖縄産の糸が出来上がるという目標を叶えたいと思っているので、そのためには政府の支援が必要だなと思っています。

小林:インドネシアでは、政府と一緒にやられていますよね。

宇田:そうです。政府管轄の農業機関で、世界一の農業団体と言われているところと連携することができました。

否応なく求められていく「エシカル・サプライチェーン」の開示

小林:なるほど、ありがとうございます。最後にお互いにご質問をいかがでしょうか。

山田:それでは私から、小林さんに質問をしたいです。小林さんは本当に著名な方で、かつインターナショナルな活動をされているので、「日本と海外の差」を強く実感されていると思うんですよね。
そのなかで、いまの日本ではできないこともあるのでしょうけれど、欧米を中心に最先端の取り組みとして、どんな事例があるのかをうかがいたいです。

小林:そうですね。サーキュラーエコノミー自体のとらえ方が、わりと日本だと限定的になっていると感じます。脱炭素、ゴミを減らす「ゼロウェイスト」といったイメージが強いですよね。
それが間違っているわけではないんですが、今日も別のディスカッションで「生物多様性」がテーマになってたように、「生物多様性」というのは絶対に入ってきます。それと、「Human Well-Being」ですね。結局は人類が幸せになることも重要で、不幸せになってはいけないので、そこを経済成長とどう擦り合わせるのか。だから、デカップリングといって、経済成長とエネルギー消費を切り離すことが重要です。

総じてエシカルかどうか、倫理的かどうかが、いまはすごく求められるんですね。
そういう意味で、たとえば就学児童に奴隷労働をさせていないか、あるいは原材料を採掘する際に、それがテロリストや犯罪組織の資金源になっていないかなど、原材料の調達先まですべて公表するような、エシカル・サプライチェーンの開示が必要になってきています。

いろんな会社が、いくつも開示させるシステムをつくっています。
ウェブサイトの情報を全部拾ってきて、その会社自体のランキングを付けるんですね。日本語でもクローリング(※ウェブサイトを巡回して、情報を取得・保存するプログラム)されているんですけど、機械学習させて自動判定しています。
日本企業も好むと好まざるとにかかわらず、監査されています。監査対象としてランキング付けられているので、脱炭素だけのスコアが高くても、ダイバーシティやインクルージョンを含めた全体のスコアが低くなることはありえます。そこに無頓着では、今後はサプライチェーンから外されてしまう可能性もあるわけです。

そうしたサプライチェーン、また製品をつくるすべて工程で脱炭素なのか、これをライフサイクルアセスメント(LCA)と言いますが、その点を含めて、数値目標やロードマップ、どのようなチームで当たっているのかを情報開示する必要があります。
しかし、まだ日本では「環境に優しい」と謳っていればよくても、その言葉に裏付けがともなわない場合、下手をすると「グリーンウォッシュ(※上辺だけの環境配慮を表す言葉)」と呼ばれてしまう時代に突入しています。これについては欧州で罰則規定も議論されています。イメージ訴求ではなく、本気で考えていくべきだと思います。

取り組み事例としては、町全体を廃材のみでつくりあげるものだとか、土壌汚染されたエリアの浄化や温暖化を防ぐために、植物を利用したりする「バイオオーグメンテーション」だとか、すごく面白いやり方があります。日本でもソニーが行っていますね。
ハードウェアを用意するだけでなく、宇田さんの活動のように、その土地の植物など生態系の力に着目しているものは、欧米ではかなり多いのかなと思います。

……というところで、お時間が来てしまいました。最後にサーキュラーエコノミーの未来について、予測から、「こうあってほしい」という理想像も含めて、ご意見を一言ずつお願いします。

山田:一つは、「いまできることをきちんとやっていく」という姿勢が大事だと思っています。冒頭でご紹介した「Wサーキュラーの仕組み」というのも、われわれ一社でできていることではなく、関連団体に協力をあおぎながら、一緒にやらせていただいています。自分たちでできるサーキュラーを広げていくことが、まずは重要かなと思います。
もう一つは、いまの延長線上にはないことにも挑戦していかなければならないと思っています。素材で言えば、宇田さんのように食品廃棄物の利用という観点がありますし、最近だと蜘蛛の糸を使って人工的にタンパク質にしたり、きのこの菌をうまく培養したり、バイオの力を使った新しい素材開発というのが行われています。

根本的なCO2削減や生物多様性の維持のためには技術が必要ですし、これまでの延長線上にないチャレンジは、われわれの業界以外もやっていく必要があると思います。
そうした取り組みのスタートとして、宇田さんとやらせていただいているので、本当に期待しているし、楽しみにしています。

小林:ありがとうございます。宇田さんはいかがでしょうか。

宇田:本当にいまは大きな変革のときで、食べ物と同じように着ているモノについても、どこで、誰が、どのようにつくっていて、どういう製造過程を経ているのかが、当たり前のようにわかる時代になると予測しています。そうした背景のなかで、製造背景が見える繊維製造を私たちとしてはやっていくわけです。

パイナップルというものに縁があったわけですが、とてもポジティブなイメージがこのフルーツにはあります。世界中でハッピーのシンボルとして考えられているんですね。
この繊維が広まっていったとき、「社会変革をした素材だ」という認識が広まるところまでめざしたいと思っています。パイナップル由来の繊維でつくられた洋服を着ることで、ちょっと幸せな気持ちになる、社会がちょっと良くなったという気持ちになる。そんなところまで、進めていきたいです。

小林:ありがとうございました。お時間になりましたが、いかがでしたでしょうか。「循環型経済のためのエコシステム形成」のディスカッションでした。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

▲パネルディスカッション終了後のネットワーキング・タイムの様子。


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登壇された宇田悦子さんは、もともとは11年間、美容系の企業に勤めていたサラリーマンで、技術開発の知識などは一切なかったそうです。ゼロからさまざまな人や企業に協力を取りつけ、壮大な事業を展開されている姿を見ると、「意志」や「パッション」の重要性を再認識させられます。

インフォバーンでも、ESGに関わる企業の活動に対し、さまざまなマーケティング支援、デザイン支援を行ってきました。これからも、サーキュラーエコノミーに資する「意志」や「パッション」を持った企業の方々の取り組みに、貢献してまいりたいと思います。

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。