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【海外事例】欧州に学ぶ、人的資本経営関連項目の開示方法・伝え方

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経済産業省では、「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。」と表現されています。また2021年には株式会社東京証券取引所発表のコーポレート・ガバナンスコードに人的資本に関する記載が盛り込まれたり、翌年5月に公開された「人材版伊藤レポート2.0」においても具体的な実践手法に関する考え方が発表されました。

従来から取り組んでいる人材に関する活動も、サステナビリティ活動の一環として企業内外に上手く伝えることができれば、企業価値を向上させる絶好のチャンスにもなり得ます。今回はEUにおける人的資本経営の考え方と、ある企業の例についてお届けします。

EUにおける人的資本経営の背景

2019年ごろよりEUの議会では、2050 年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「欧州グリーンディール」という方針の存在が重要視されており、そのためにESG (環境、社会、ガバナンス) およびサステナビリティに関する規制や指令が次々と発効してきました。

従来からあった2014年の非財務情報開示指令(NFRD)においては、「社会と従業員」を含む情報の開示が(従業員500人以上の企業を対象に)義務づけられてきましたが、対象企業の少なさや開示情報の質の低さが課題となり、2021年には対象企業や開示情報の具体化など、高度化した対策が法制化されています。

さらに今後はこのNFRDをより改正し、2024年度からCSRD(企業のサスティナビリティに関する情報開示指令)が施行されます。

このCSRDでは、財務的影響と、企業活動が外部の環境や社会に与える影響との二つの側面からのマテリアリティ(重要課題を特定する尺度)を用いること、つまり「ダブル・マテリアリティ」の原則が明文化されており、これを考慮した情報開示が義務付けられることになります。

CSRDはNFRDに比べて開示内容が強化され、開示対象も非上場の企業も含むすべての大企業(※)と、一部例外を除いた中小企業を含むすべての上場企業に拡大しました。これにより、開示義務の対象となる企業数は、現在の約1万1700社から約5万社へと大幅に増加しました。

※大企業の基本的要件とは、(1)総資産が2,000万ユーロ超、(2)純売上高が4,000万ユーロ超、(3)年間の平均従業員数が250人超の条件のうち、2つ以上を満たすとされる。

また開示情報の種類としては従来のNFRDでは

  • 環境問題
  • 社会問題と従業員の待遇
  • 人権の尊重
  • 汚職と贈収賄防止
  • 会社の取締役会における多様性(年齢、性別、教育および職業的背景の観点から)

といった情報を開示しなければなりませんでしたが、さらにCSRDでは、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいて報告することが求められています。ESRSには横断的基準の他にトピック別基準も12項目設けられており、

  • 環境のトピック:気候変動、汚染、水と海洋資源、生物多様性と生態系、資源利用と循環経済
  • 社会のトピック:従業員、バリューチェーンの労働者、影響を受ける地域社会、消費者と最終利用者
  • ガバナンスのトピック:企業行動

が挙げられています。

その一例を見ると、自社従業員の項目では、仕事の環境、研修の機会、安全と健康、残業も含めた労働時間、介護や育児を支援するための労働時間の柔軟性、育児支援、出産・育児休暇、人種・宗教・性別・年齢での差別などのデータを公開しなければなりません。

また、研修の機会を提供するということも内容に盛り込まれています。これは、企業が従業員に対して業務に必要なスキルアップのために、どのように適切な研修・トレーニングの機会を提供しているのかということが問われます。

さらに労働時間やワークライフバランスについては、週に48時間以上働く従業員の割合、家族関連の休暇を取得する資格がある従業員の人数や性別、そして実際に取得した人数や性別とその内容などが該当します。育児休暇を取得した従業員の復職率と定着率、介護等で柔軟な勤務体系を利用する資格のある従業員の人数や性別、そして実際に利用した割合と性別なども公開する必要があるのです。

このように多様な項目に渡って公開する必要がありますが、EUの企業の多くは、投資家だけではなく一般消費者も意識した表現が多く存在します。年度ごとにPDFを用いて詳細にレポートしている企業の例を見てみましょう。

人的資本も含み、情報開示模索し続ける | Vodafone Group

Vodafone Groupは、イギリスに本社を置く携帯電話事業会社です。ヨーロッパ、アジア、アフリカで事業を展開。一時期、日本市場にも参入していましたが、2006年にソフトバンクに譲渡する形で撤退しました。現在、ユーザー数は3億人以上で世界第4位、売上高は456億ユーロ、従業員数は10万人以上です。

Vodafone Groupはアニューアルレポートを含むさまざまなデータを公開しています。
Sustainable businessという大きなカテゴリでは基本方針や戦略、マテリアリティマトリクスの明示などの概要を説明。

また、目標達成がどの程度達成されたかについてもわかりやすく表現しています。

下層ページのSustainability reportsにはEUやアフリカでの人口カバー率といったビジネス関連トピックに加え、「女性取締役の数」や「総労働力における女性の割合」、さらには「気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) 報告書 2023」「奴隷制度と人身売買に関する声明」も表示されています。

ページを進めていった先の「ESG Addendum 2023」ではドキュメントだけでなく、マルゲリータ・デラ・バレ最高経営責任者(CEO)へのインタビュー動画も公開(※第一四半期の業績の解説)。

さらにはプレゼンテーションタイプのレポートである「Annual Report 2023」は、総ページ数252ページにも渡り、詳細が表現されています。

基本的にVodafone Groupは持続的なビジネスの戦略のひとつとして「Inclusion for all」を掲げていますが、そのなかでも人的資本経営に関連のある「Workplace equality」というカテゴリーを見てみましょう。

Annual Report 2023

Screenshot:https://investors.vodafone.com/sites/vodafone-ir/files/2023-05/vodafone-fy23-annual-report.pdf

従業員の数といった基本情報はもちろん、ジェンダーダイバーシティ関連のデータ、従業員の家庭内暴力や更年期障害に対するサポート、産休・育休、LGBT+、人種、職場のデジタル活用、リーダーシップの多様性、賃金の公平性などさまざまな話題に触れられています。そしてこれらのデータだけでは伝えきれないストーリーや最新情報は記事型コンテンツとしても掲載されています。

Vodafone Groupは、このサイトの中で、これらの準備は2022から体制を刷新して取り組んでいること、さらに「ESGレポートのための単一の統合されたフレームワークが存在しない」ことで難題に向き合っているという認識のなかで日々模索していることが記載されており、中長期的に情報発信を試行錯誤し続けている様子がうかがえます。

日本企業の取り組みは、まず情報発信の体制構築から

今回はEUの事例をお届けしましたが、先進的に取り組まれている企業であっても発展途上である状況であるようです。今後日本企業も同様に大きな課題となってくることが予想されますので、まずは情報発信のための社内および社外の体制をいかに構築していくかが重要になりそうです。

インフォバーンでは、実績豊富なオウンドメディア運用のノウハウをもとに、社内の情報が集まる仕組みづくりや、情報発信の体制構築や、柔軟性のある外部リソース手配についてもご相談を受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。

Illustration by Getty Images

EX Journal編集部

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