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「UX戦略」って一体何なんだ?:企業のゴールとユーザーのゴールをつなぐシンプルな考え方

株式会社インフォバーン ロゴ画像

遅ればせながら、みなさん明けましておめでとうございます! インフォバーンKYOTOの井登です。

前回コラムからしばらく経ってしまいましたが、良い年末年始をお過ごしになられましたでしょうか?

暦の上では今年は少し長めのお休みだったので、その間にこの1年の計をじっくりと考えて「さぁ今年もやるぞ!」と真新しい気持ちで日々の生活をスタートされている方も多いことでしょう。

かくいうぼくも、毎月毎月「インフォバーンKYOTO:今月の掟」と題して、毎月のちょっとした仕事上の心がけを決めて、アジしかないヘタな書にしたためているんですが、この1月は通年の思いもこめて、「ビバ! 三方よし」という掟を今年の計としました。

 

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この近江商人の、利害関与者すべてをWin-Winにする商いの心構えにあやかり、お客さまであるクライアント企業と自分たち(ぼくらです)が、お互いその先のエンドユーザーやカスタマーのことをともに見て、そのユーザーにとって、とにかく“イイこと”ができるようにしたい。

その結果として、クライアントとユーザーがともにすごく幸せに、そしてお手伝いするぼくらも、ほんのちょっと幸せのおすそ分けをいただいて、皆ハッピーになりたい! そんな、とてもシンプルな思いからです。

でも、実際には難しいですよね……

 

現代の“三方よし”を実現するためのたったひとつの冴えた方法?

企業には企業のビジネスとしての期待や都合、そして制約条件などがあり、ユーザーにはユーザーの期待や欲しいものがあります。八方まーるく利害が一致、とはなかなかいかないのが浮世の常です。

そのうえ、前々回のコラムでも書きましたが、ユーザー自身「何が欲しいのか」、本当には意識していないし、なので明確に言ってくれない、という中で(ぼくらはまぁ、後回しでいいとして)、企業とエンドユーザーの双方にとってのゴールを両立させるのは大変困難なことであることは言うまでもありません。

個人的な私感で断言するなら、「簡単にこの問題を解決する魔法なんてない」と思います。

ただ、この難しい問題に少なからず正しくアプローチできる方法があるとしたら、それは企業のゴールとユーザーのゴールの双方をつなぐ“何か”を、ユーザー中心の発想で探しだしていくことではないでしょうか?

ユーザーにとっての理想的な経験を理解し、発想することによって、ユーザーにとっての理想の経験と自社のビジネスゴールが両立し得るポイントを、製品やサービスにフィードバックし、一連の仕組みとして組み込んでいく、というアプローチです。

この“ユーザーにとっての理想的な経験”のことを、ユーザー・エクスペリエンス(以下UXと略記)と呼びます(UXという言葉の定義については語る人によって諸説あります。ここでは井登個人の理解と認識での定義・理解であることをご理解ください)。

 

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手っ取り早く“UX戦略とは何か?”を知れるほど、世界は甘くなかった…

ところで、“UX戦略”という言葉を耳にした方もいらっしゃるかと思いますが、昨今、UXをより戦略レベルで捉えようとする動きが欧米では、すでに出てきつつあります。

その気運の高まりを感じさせるトピックとして、昨年の9月には米・アトランタにおいて「UX STRAT」と題された、世界初の「UX Strategy=UX戦略」をテーマに冠した国際カンファレンスが開催され、ぼくも参加してきました。

カンファレンスの模様については、こちらのぼくのレポートスライドと、同じく一緒に参加された株式会社コンセントの長谷川さんと講師をつとめさせていただいたオンライン講座のschooさんでの報告会形式による講義で詳しく報告、紹介していますので、ご興味ある方はぜひご笑覧ください。

個人的には「UXに関する研究や実践が超進んでいる米国なら、きっと“UX戦略”と言われているものの定義や体系化がバッチリなされているに違いない。それを学びに行こう! そしてマネしよう!」と都合の良いことを期待して参加したんです。

ワクワクしながら、現地でオーガナイザーの方に「UX戦略って、こっちではどういうことだと定義されているんですか?」と問いを投げかけたところ、

「とてもいい質問だけど、実はまだUX戦略の定義は明確にはなされていないんだよ。だから色々な立場の人がその定義について語り合うためにこのカンファレンスを開いたんだよ」

という答えが…。アテが外れました(苦笑

UXやデザインシンキングが進み、専門家もたくさん存在している欧米でも未だそのフェーズだということは、裏を返すと、“UX戦略”については、これからのビジネスを考えていく上で、まだまだ議論と試行錯誤を重ね、じっくりと定義を図っていくべき重要なことなんだと改めて理解しました。

 

で、”UX戦略”って一体何なんだよ!?

カンファレンスでのプレゼンテーションやパネルでも諸説入り乱れではありましたが、会期中に長谷川さんと議論し、ぼくらなりの現時点での理解は、企業の成熟度によって、“UX戦略”をどう定義・位置づけるかには大きく2つの方向があって、それは、

【1】 UX Design for Business Strategy (事業戦略にいかにUXデザインを統合していくか? を志向する)

【2】 Strategy for UX Design (UXデザインにおける戦略性を高めていくことを志向する)

なのではないか、ということ。

【1】の方が、ビジネスそのものをUX視点・デザインシンキングをベースに考える、という意味合いで、【2】の方は、UXデザインをより戦略思考(ビジネス観点で)行う、という意味合い。

企業の戦略成熟度が高いほうが、2→1に向かっていくというイメージになるんじゃないかと思います。

 

2typesofUXStrat

 

いずれにしても、これまでどちらかというと製品デザインやWebサイトデザインなどのある特定領域で語られがちだった“UX”という概念が、企業そのものである“ビジネス”の領域にまでその影響範囲を拡大してきている≒拡大すべき価値を持ってきている、ということの現れだと感じます。

だからこそ、より一層簡単なことではなくなってきているとも言えますが、この機会に是非自社にとっての“UX戦略”は何か? を考え始めてみませんか?

ぼくも、このテーマについては自分なりに引き続き学び、考え、色々な方々と議論させていただくことで、理解のアップデートを図っていきたいと思います。

では、今年も微力ながら少しでも皆さんのお役に立てる情報を発信してまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

京の都より敬愛をこめて、ごきげんよう。

 

井登友一

取締役 副社長

デザインコンサルティング企業においてUXデザインの専門事業立ち上げに参画後、2011年に株式会社インフォバーン入社。UXデザイン/サービスデザインを中心としたイノベーションデザイン支援事業部門「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」主管。