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2014.9.26

UX戦略をテーマにした国際会議「UX STRAT2014」参加してきました

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こんにちは、インフォバーンKYOTOの井登です。
前回コラムからしばらくぶりの寄稿となってしまいましたが、その間にすっかり涼しくなり秋めいてきましたね。

この夏はとても旅の多い日々だったのですがそのなかでもとても収穫の多かった出張のひとつ、UX戦略をテーマに冠した国際カンファレンス「UX STRAT2014」への参加について少し報告と所感の形式でみなさんにも共有させていただこうと思います。

 

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※ボルダー市内の町並み。近くにコロラド大学ボルダー校を擁する端正で美しいキャンパスタウン。
古い町並みを大切にしていて、ちょっぴりヨーロッパぽい印象も。
 

UX STRAT2014は、昨年始まったばかりのできたてホヤホヤの国際カンファレンスで、昨年のアトランタでの第1回開催に続き、2年目となる今年は米国コロラド州のボルダーにて開催されました。

本カンファレンスは他の国際カンファレンスに比べていくつかユニークな点があるのですが、ぼくの私感では次の3点について特にユニークネスを感じています。

 

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※カンファレンス会場はボルダー市内のシアター。
他のショーと同様、カンファレンスタイトルが掲げられたビルボードを見た瞬間気持ちがアガりました(笑。
こういうところの演出が、海外のデザインカンファレンスはニクいですね。
 

ちょっと変わった生い立ちの国際会議「UX STRAT」

1つ目は、本カンファレンスはLinkedInの中のたったひとつのコミュニティ内の議論が発端となり、少人数の有志によって実現に至ったボトムアップ型の国際カンファレンスであること。

デザインやリサーチ、そしてマーケティング戦略をメインテーマとする国際カンファレンスの多くは、その背景に業界団体や専門的な学術機関が主催・オーガナイザーとして発起・運営されることが多いので、とても珍しいケースです。

2つ目は、すべてのセッションがシングルトラックで行われ、参加者は全員同じくすべてのセッションを聴講・体験できること。
これについては、本コラムの終盤で触れたいと思います。

3つ目は、プレゼンターやワークショップ主催者、そして聴講参加者のバッググラウンドがとても幅広いこと。

たとえばリサーチ、デザインリサーチの権威がステージに立ったかと思えば、その次には人間工学やインタラクションデザインのエキスパートが、そしてふと客席の後ろを見渡すと、情報設計(IA)の世界では超有名人のような人が聴講に来ている、といった具合に「UX戦略」というテーマを共通のプロトコルとして、さまざまな専門性を持った人たちが等しく同じ場に集い、議論し、理解を深め合う、とても有益な機会であることです。

これは言い換えると、「UX戦略」そのものがまだまだその定義の途上にあり、さまざまな領域と横断的に関わり、意味をつないでいくべきテーマである、ということを端的に表しているように感じます。

 

昨年からの変化。そしてUX戦略を取り巻く潮流の変化とは?

ぼく自身は昨年のローンチイベントから2年連続の参加でしたが、(昨年のレポートはこちらをご覧ください)この1年でとても大きく変わったと感じた点がありました。

前回初年度のカンファレンスでは、いわゆる「ビジネス」の領域を主とした専門範囲とする人と、「デザイン」を主とした専門領域とする人が、それぞれの立場からの事例紹介や話題提供、そして問題提起を行っていた印象がありました。
言うなれば、

・ Business strategy for UX Design
(UXデザインそのものを企業活動における戦略性とどのように同一化するか)

・ UX for Business Strategy
(企業戦略にいかにUXデザインを統合してゆくか)

という2つの観点が混在、様子の見合いをしている状態。

まさにぼく自身も「UX戦略という言葉は、上記のどちらを定義するものなんだろう?」というふんわりした疑問を解消すべくUX STRAT2013に参加したのですが、主催者であるPaul Bryan(米国のUXコンサルタント)にそのことを尋ねると、

「米国でも残念ながらまだUX戦略は何か? という定義は定まっていない。本カンファレンスはまさにそういうことを議論していくために立ち上げたんだよ。」

という答えが返ってきました。

ところがそれから1年が経ち2年目を迎えた今年のUX STRATでは、「ビジネス」と「デザイン」の双方の観点からUX戦略を語るプレゼンターがすごく増えてきていることに驚いた、というのが率直な感想です。

 

UXと事業戦略を活かすために、UX戦略を殺す!?

たとえば、IBM DesignのTodd Wilkensのスピーチでは、”Product Strategy”というキーワードを提起。

IBMにとっての事業そのものである「製品」は、そもそもが良質なユーザーエクスペリエンスを提供することを目的とした戦略思考から生みだされるべきであり、それを実践しているというお話。

つまりこれは、IBMにおけるDesign Thinkingは従来の製品の(意匠などの)デザインに関する領域だけではなく、事業そのものの方向性や戦略策定に至る領域をUX起点で行う、全社的なフレームワークになっているという考え方の提起でした。

この活動を徹底・実践するために、IBMでは、「プロダクトマネージャー」「プロダクトチーム」「エグゼクティブ」「新規採用者」などさまざまな役割や職位にある社員を対象として、「IBM Designcamp」というワークショップスタイルの教育プログラムを行っており、年間を通じるとグローバルで想像を絶するセッション回数を開催しているそうです。

Toddが発した「年間にIBM Designcampで使用するポストイットの枚数は、336,100枚だよ」という発言は笑いとともに、大きな驚きの声が会場に響いていました(笑。

 

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セッションの終盤では、

Killing UX Strategy to save UX and Strategy.
(UXと事業戦略を活かすために、「UX戦略」を殺す)

というセンセーショナルな問題提起がなされ一瞬会場がどよめいたのですが、この言葉の真意は、従来のように「ビジネス戦略」と「UXデザイン」が分断された状態では本質的で良質な「UX戦略」は生まれない。

だから、あえて表層的な「UX戦略」という言葉を封印することで、製品戦略自体をUX志向で策定していく道をIBM Designは選ぶ、という強い決意を感じました。

これは昨今、今や製品が単なる”モノ”として単独でユーザーに提供されるものではなく、製品を取り巻くあらゆる付帯サービスや周辺体験までをすべて包括した価値をユーザーに提供し、評価されるべき存在になっていくべきであるという考え方である「グッズドミナントロジックからサービスドミナントロジックへの転換」と符号するパラダイム・シフトであると考えられます。

そしてこれは個人的な考えではありますが、IBMのような世界を代表するビッグカンパニーがこのようにさまざまな組織や立場の人を「デザイン」という共通思考でつなぎ、ユーザー経験を基軸としながらこれだけの取り組みを実現できているのであれば、IBMよりももっと小さく、フットワークを軽くできる企業や組織であればなおさら実践できるはず! という可能性と確信を得たことが、とても大きな収穫でした。

帰国後、自身のクライアントや自社内の組織などで、ぜひ実践と取り組みにチャレンジしたいと思います。

 

デザインとビジネスの戦略レベルでの融合のカギは「共感」と「情報集約」

IBM DesignのToddが引用した、元IBM CEOのThomas Watson Jr.の名言、”Good Design Is Good Business.” をスピーチで引用したのは、ボストンを拠点にグローバルに活躍するイノベーション・エージェンシーであるContinuumで以前首席戦略コンサルタントを務めていたBrian Gillespie。

Brianは、企業における組織の中で事業戦略担当者(チーム)が戦略的なデザイン思考を失わずに戦略を描き実践するために必要な思考を”Strategic Design(戦略デザイン)”と定義。

 

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戦略デザインは

・White Space = 競合がおらず事業価値の高い戦略的市場をみつけること
・Communication = 企業組織におけるコミュニケーションと信頼を醸成すること

であると述べ、それぞれを実現するための重要なカギを握るアプローチを、「Empathy(共感)」と「Curation(情報集約)」と提言しました。

通常は定性的かつ情緒的な属人性の強いものになりがちな「共感」を、量的に”審査 = Audit”することでビジネス側のチームにとって親和性を高めることに寄与し、同じく重要なもうひとつのカギである「情報集約」については、徹底的に”可視化 = Visualize”することで企業組織内における相互理解と意思疎通を円滑にすることに寄与する、と結びました。

 

これからの組織のあり方

企業組織におけるUX戦略の活用という点では、世界的なUXデザイン/サービスデザインコンサルティング企業として有名なAdoptive Path元共同創設者であるPeter Melholtzのスピーチの中で今後の企業内の組織のあり方についてとても示唆的なエピソードがありました。

それは、これからのUX戦略的組織は、従来のように「開発」や「デザイン」といった機能・職能別の階層型組織ではなく、カスタマージャーニーのかたまりに沿って顧客に対して必要なすべての機能を持った有機的な組織単位で構成されるべき(Organize for the Customer Journey)だと提言しました。

この考え方をPeterは”Decentralized(脱中心化)”という言葉で表現しています。

たとえば、ユーザーにとってのお買い物経験においてのカスタマージャーニーが、「検索・調べる」→「サイト訪問・商品ページを見る」→「ユーザーがレビューなどの情報やコンテンツ作成を行う」→「パーソナライズする」→「買う」→「サイトを去る」だったとしたら、それぞれの経験フェーズごとに最適なユーザーエクスペリエンスをユーザーに提供するために必要なチームを、フェーズ単位で結成し対応するというイメージです。

 

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※カスタマージャーニーのフェーズごとにリーダーシップを位置づけ、
クロスファンクショナルチームで対応すべきというイメージ
 

UXは手法から企業そのものの根底思考へ

以上の3名のスピーチの他にも、今後のビジネスとUXデザインの融合について先見的視点や示唆に富んだスピーチが数多くのリードプレイヤーによって行われました。

その中で個人的に感じたことは冒頭にも触れたように、「UX戦略」がこれまで以上に企業のビジネス戦略そのものとより密接な関係を築きつつあること。

そして、それがビジネスサイドからもデザインサイドに対して一層求められているという実感です。

その証拠に前述にもご紹介したいくつかのセッションにも表れているように、UX戦略を語ることは、その先に「企業における組織戦略」や「製品戦略」、そして「企業戦略」そのものを考えることと、かなり近いレイヤーに近づきつつある、と感じます。

つまり、UXは従来のようにデザインやリサーチなど特定の専門職だけが推し進めるフィールドではなく、今後は企業がユーザーを中心において事業戦略を考えていくうえで、それに関わるすべての人やチームの共通のプロトコルになっていくべきなのではないか? といっても過言ではない、という現状と示唆を、本カンファレンスの多くのスピーカーが与えてくれました。

昨年から始まったばかりの若いカンファレンスながらも今後のビジネスを考えるうえで重要なタームになりつつある「UX戦略」を共通テーマに、たった1年で急激な進化を遂げた本カンファレンス。

来年も引き続き注目すべき、と確信した2日間でした。UX STRAT2015は果たしてどんな進化を感じさせてくれるのか? すでにワクワクしています。

 

より幅広い立場と視点から、より多くの議論と体験の共有を

余談になりますが、UX STRATは初年度参加者250名、そして今年も250名という、とてもコンパクトな規模で開催されるカンファレンスです。

主催者の主張としては、このくらいの人数と、シングルトラックであることにはこだわりがある様子。定義がまだ不透明な「UX戦略」というテーマを扱うにあたって、参加者がより密な距離感で交流し議論できる機会をつくることを大切に考えているということです。来年もこのフォーマットは守る考えということでした。

実際、連日オフィシャル/アンオフィシャルなミートアップや食事をしながらのカジュアルなミーティングがあちこちで行われ、参加者同士が知り合い、立場や自身の専門領域を越えてリラックスした議論ができることこそが、日本からの参加者としてはとても有益なことだと感じます。

 

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昨年のカンファレンスや別のカンファレンスで知り合った海外の友人から「ユーイチ、この後仲間と食事に行くから一緒に来ないか?」と誘われるままについていくと世界トップクラスのUX関係者やIAたちの集まる場だったりしてびっくりすることも。

こういう時に、人間関係を円滑にするために生まれた人類最大の発明である「アルコール」があるとすぐに打ち解けて、楽しく議論できますね(笑。

 

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まだ来年の開催地は未定とのことですが、本カンファレンスはUXのみならず、事業戦略や製品戦略をユーザー中心の発想で考えるべき立場の人々にとって、もっと注目し、関わっていくべき重要なカンファレンスであると改めて感じています。
来年は日本からも登壇、なんてことも夢に見つつ、参加を決意した帰路でした。

すでにUX戦略は、学びと理解のフェーズから、実践と評価のフェーズに入っています。
たとえ少しづつでも、自身のリアルなビジネスの場でチャレンジしたい! と思われる方々と議論し、実践していきたいと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お目にかかる日まで。ごきげんよう。

 

※下の写真は主催者のPaul Bryanと最終日にホテルのバーで再会しおしゃべり。
来年は日本でも何か面白いことがあるかもしれませんよ?

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SlideShareでのレポートはこちらからどうぞ。

 

 

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