閉じる

2016.4.22

デジタルマーケティングはパーソナライゼーションの夢を見る

メディアジーンの吉田です。3月22日(火)〜24日(木)、米ネバダ州ラスベガスで開催されたデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2016」に参加してきました。このイベントを通じて、個人的に気になったのが、マーケティングを個人単位に適用していく手法、パーソナライゼーション。今回はこのデジタルマーケティングで最も注目すべきトレンドについてお伝えしようと思います。

いま、デジタルマーケティングが直面する課題の一つとして、デバイスのフラグメンテーション(断片化)が挙げられます。特にここ数年、顕著な変化をもたらしたのがモバイル。世界的に見てもモバイル化の流れは止まりません。先進国を中心に起きている変化として、デスクトップ主流の時代に比べ、人々はさまざまなデバイスから高頻度/少滞在時間でメディア接触を繰り返すといった行動が見受けられます(※1)。
※1:中国は例外で、市場がモバイル中心型に発展し、一定数の人々がモバイルで(ときにはWechat[微信]のようなアプリだけで)メディア接触し、モバイル決済するのが主流。→「2019年5兆円の旅:中国のモバイル広告は新しい龍を生む」(DIGIDAY[日本版])

この「高頻度/少滞在時間/多デバイス」(※2)により、実際に人々がどのような経路で、商品情報に触れ、最終的に購買を決断もしくは中断したのかが把握しづらくなっています。それはつまり、企業が各デジタル広告の効果を見極め、予算配分を調整する「アトリビューション」という手法が正確さを欠くことを意味します。「広告費の半分が金の無駄使いに終わっていることはわかっている。わからないのはどっちの半分が無駄なのかだ」(米実業家ジョン・ワナメーカー)という状態です。
※2:「Googleが分析ツール一新へ:DMPから広告配信まで自社プラットフォーム直通」(DIGIDAY[日本版])

この課題を踏まえたうえで、Adobe Summit 2016で紹介された、クロスデバイス消費者認識ネットワーク「デバイスコープ」の仕組みを追ってみましょう。

デバイスと人を紐付ける

デバイスコープは「このデバイスを利用するのはユーザーA(匿名)」とデバイスと個人を紐付けられるテクノロジーです。アプリ/ウェブのログイン情報をもとにデバイスと個人を紐付け、個人情報の安全性を確保したまま、企業間で共有。およそ12億ものデバイス規模に対応できると言います。

ここで重要となるのが、「クロスデバイストラッキング」と呼ばれる手法によって、各デバイスに飛び散った行動を追跡できる点です。これにより、先に挙げた「高頻度/少滞在時間/多デバイス」によりモヤの中に隠れた消費者の行動が、見えてきます。

まず、役に立つのが広告予算配分の最適化。たとえば、「ユーザーAはモバイルとタブレットとデスクトップを利用している」ことがわかるのは、マーケティング的に大きな前進と言えるでしょう。なぜなら、これにより「ユーザーAはモバイルとタブレットで商品Bの情報を集めた後、デスクトップのECサイトで商品Bを買った」という動きが分かるからです。

ユーザーAのような行動をとる消費者が、商品Bの購買層のなかで80%を占めるならば、企業は「どうやら、われわれの消費者は、モバイル、タブレットで調べて、最終的な購買はデスクトップで購入するという人が多い。デスクトップは購入手段に過ぎないようだ」と感づきます。この例はとても極端ですが、これにより、「消費者が情報収集するモバイルとタブレットに広告予算を寄せる」という判断がとれるでしょう。

2つめの例です。下図をご覧ください。

Campaign 1では、スマートフォンとラップトップとデスクトップから、自社サイトに1訪問者(Visitor)ずつあった。この訪問者は3人とも別の人とカウントします。キャンペーンは3ドルの収益を上げたので、「1訪問者当たりの収益」は1ドルです。

しかし、デバイスコープにより、3デバイスを同じ1人の個人が利用していると分かれば、3回の接触は「3訪問者」ではなく、1人(1 person)であり、「1人当たり収益」は3ドルになります。個人にフォーカスすると、従来の「訪問者」換算は不十分な点が認められます。

「マーケティングの単位はデバイスから『人』になる」と力説するAdobe社シニアバイスプレジデントGMのブラッド・レンチャー氏

「マーケティングの単位はデバイスから『人』になる」と力説するAdobe社シニアバイスプレジデントGMのブラッド・レンチャー氏

これは企業にとって分析対象の粒が、デバイスから個人へと、一段階細かくなったことを意味します。つまり、分子が最小単位だったと思っていたら、原子が発見された、といってもいいでしょう。Adobeのブラッド・レンチャーGMが強調したキーワードは、まさに「デバイスから人へ」でした。

続いて、下図をご覧ください。

上段が、デバイス=ユニークビジター(Unique Visitors)(※3)、下段が個人=ピープル(People)・パーソン(Person)を比較した画面です。個人の数はデバイスの50%程度。これはオーディエンスが平均して二つのデバイスでサイトを訪れていることを示しています。1単位当たりの売上(Revenue)も滞在時間(Time)もやはり個人はデバイスの2倍程度の値です。これは従来の主流とされてきたアナリシスの前提を覆しかねない違いです。
※3:日本ではユニークユーザーという呼称が一般的

データサイエンスが可能にする?

こうして得られた「クロスデバイスデータ」を、さまざまなサードパーティデータ(※4)と紐付けていくことで、消費者の行動を明らかにできる可能性があります。これらは、各デバイスからログインしているGoogle、Facebookなどのプラットフォームでは可能ですが、彼らはこのデータの門戸を積極的にオープンにしていません。企業が力を合わせることで、クロスデバイストラッキングの可能性が浮上しているのです。
※4:「【一問一答】サードパーティーデータとは?」(DIGIDAY[日本版])

現状、このように判明したデータをもとに一人ひとりに最適化された広告を当てること(パーソナライゼーション)は、まだまだコストに見合わず、テクノロジーも到達していません。しかも、たとえ広告を当てたとしても、それが効果を生むかはまた別の話になってきます。

ここで注目を集めているのが人工知能、特に機械学習分野のマーケティングへの応用です。今後、機械学習がなんらかのブレークスルーを達成するならば(将棋や囲碁のように簡単ではないかもしれませんが)、パーソナライゼーションはより現実味を帯びることになります。同分野に巨大な投資がされているアメリカでは、このブレークスルーが信じられているようで、もはやパーソナライゼーションの成長に「織り込んでいる」と言ってもいいかもしれません。

ユニークユーザー(ビジター)は砕ける数値

あと、デバイスコープの考え方から、ユニークビジター(ユニークユーザー)という概念が揺らいでしまうことにも触れておきましょう。Adobe Strategic Partnershipsの責任者、デイブ・ディビシール氏はこう述べています。

「従来のユニークビジターの捉え方では異なるデバイスで複数回訪れた同一人物を、ユニークなユーザーとして認識してしまう。あるWebサイトのユニークビジターは3億5,000万だが、実際に訪れた人間の数は2億1,000万人だ(筆者注:数字は仮のものとみられる)」

ユニークビジターはデバイスの重複を含んでおり、つまりはユニークビジターというデバイス単位からピープルに単位を砕けることが分かりました。

まったく違うポイントからユニークビジターを批判した人もいます。BuzzFeedプレジデントのダオ・グエンです。グエンは、BuzzFeedのコンテンツはユニークビジター換算の「5倍」のリーチを叩き出していると主張しています(※5)。これは、通常算出されるユニークビジターには反映されない、多数のプラットフォームに飛び散った「コンテンツビュー」を加味した場合ですが、自社に有利な測定法を築こうとしているとはいえ、5倍はあまりにも大きな違いです。
※5:「BuzzFeedはいかにデータを収集し、分析しているのか」(BuzzFeed)

これらの議論はデバイスとプラットフォームがフラグメンテーション(断片化)したことの裏返しです。このフラグメンテーションをまたぎ、つなげることがデジタルマーケティングの課題であり、新しい機会なのです。クロスデバイス、クロスプラットフォームのソリューションを誰が先に提供するかという競争ともいえるでしょう。

このような環境下では、ユニークビジターや視聴率(「テレビコンテンツ」も同様にクロスデバイス視聴がトレンドです)という従来型の粗い指標はおそらく、過去のものになるでしょう。さらに、グローバルに進行するモバイル化と、そのモバイルに吸着したプラットフォーム、投資が注ぎ込まれるデータサイエンス、これらがデジタルマーケティングをパーソナライゼーションに向けて押し進めているのは明白です。

 

※画像の一部に誤りがあったため、修正し再掲しました。(2016/04/15)

[記事協力]アドビシステムズ株式会社
[撮影]片岡直子

CHANNEL IB TOP