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2017.8.8

    編集視点が生み出す共感の連鎖が、イノベーションの鍵になる X-editors FES レポート

    編集視点が生み出す共感の連鎖が、イノベーションの鍵になる X-editors FES レポート

    こんにちは、インフォバーン新卒1年目の稲田です。

    モノや情報が身の回りにあふれるこの時代、多くの企業がいかに新しい価値を社会に創出できるかに頭を抱えています。そのなかで近年よく聞かれるようになったのが「イノベーション」という言葉。その名のもとに新しいアイデアやフレームワークを見出そうとさまざまな取り組みが行われていますが、実際どのようにしたらイノベーションが生み出せるのかと多くの人が悩んでいることでしょう。

    今回インフォバーンとメディアジーンが開催したのは、「編集」をキーワードに「イノベーション」を考えるトークイベント「X-editors FES(エックスエディターズ フェス)」。金融、アート、農業、建築、ビジネスなど、さまざまなジャンル(X)に身を置きながら、異なるジャンルを巧みに編集(edit)していく人々を「X-editors」と名付け、イノベーションを生み出すためのヒントを探っていきます。

    本記事では、そのトークセッションの模様をダイジェストでお伝えします。

    ■キーノート「イノベーションを生み出すための編集視点とは」
    登壇者:株式会社インフォバーンCVO 小林弘人
    ■セッション1「デジタルコミュニケーション/リアルイベントにおける戦略的編集術」
    登壇者:クリエイティブラボ「PARTY」CCO・伊藤直樹氏、「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人オーガナイザー/&Co.,Ltd(株式会社アンドコー)代表取締役・横石崇氏、ライフハッカー[日本版]編集長・米田智彦
    ■セッション2「僕たちはどのように世界を『編集』してきたか」
    登壇者:AR 三兄弟・川田十夢氏、株式会社アールストア代表取締役・浅井佳氏、BUSINESS INSIDER JAPAN 創刊編集長・谷古宇浩司

    ※登壇者の役職はイベント開催時のものです

    キーノート「イノベーションを生み出すための編集視点とは」

    CVO 小林弘人

    「なぜ編集視点が新たなイノベーションを生むのか?」その疑問に答えたのが、インフォバーンCVO 小林弘人。編集者としてキャリアをスタートし、WIRED JAPANを立ち上げた後、インフォバーンを創業。現在はコーポレイト・アクセラレーターとして企業のイノベーションを促進する事業にも注力しています。

    まず小林が来場者に投げかけたのは、イノベーションを生むための根幹には、「編集者のように考えること」、つまりEditorial Thinking(=編集的思考)が必要だということ。Editorial Thinking とは、次の3要素によって構成されるものと小林は定義します。

    • 「Define(定義する)」
    • 「Advocate(支援する)」
    • 「Emphasize(共感する)」

    たとえば、編集者に求められる「Editorial Thinking」では、企画立案やコピーライティングによってそのコンテンツにおける方向性を定義し(Define)、注目されていなかったコミュニティを顕在化させます(Advocate)。なかでも小林が重要と語るのが、編集者自身が対象に共感していること(Emphasize)。それがなければ、読者を共感させることも、新しいムーブメントを起こしていくことも難しいからです。

    そのうえで小林は、編集者が雑誌や書籍をつくるうえでのプロセスを、「Editorial Thinking」と、その思考を形にする「Editorial Engineering」に分解。形にするプロセスをEditorial (出版物など)以外の領域に応用することで、新たな価値の創出につながるというのです。

    例として挙げたのは、アメリカのWhole Foods Market。このスーパーマーケットでは、店舗自体がまるで一つの雑誌のようにレイアウトされています。たとえば、陳列される果物の向きや量はすべて統一され、店舗全体の色がグラデーションとなるように配列されています。

    店舗全体での体験価値を定義し、一般的な商品をレイアウトし直すことで新しい魅力を引き出しているのがとても印象的です。具体的にどのような効果があがっているのかもとても気になります。

    「Editorial Thinking」とは、自分自身でルールを定義するか否かが大きな境目であり、そこで欠かせないのが「言語化」と小林は言います。「世の中を観察していくなかで、事象から物事のとある局面を抽出し、情報を概念化して、皆に共感してもらえる言語にするというのが編集者の一番の原点だ」。

    キーノートのラストは、Editorial Thinkingを象徴するかのように、「検索できないものを探そう。なぜなら、それは誰も定義できてないから」という言葉で締めくくられました。

    セッション1 デジタルコミュニケーション/リアルイベントにおける戦略的編集術

    伊藤直樹氏

    第二部からは、各界の著名人とメディアジーンの編集長によるトークセッションが行われました。編集視点がさまざまなイノベーションを生み出していることを、各業界のイノベーターが事例をもって証明していきます。

    ファシリテーターとなったのは、ライフハッカー[日本版]編集長の米田智彦。ゲストに、クリエイティブラボ「PARTY」のチーフクリエイティブオフィサー(CCO)の伊藤直樹氏と、「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人オーガナイザーで、& Co.,Ltd(株式会社アンドコー)代表取締役の横石崇氏を迎え、トークセッションの口火が切られました。

    伊藤直樹氏

    クリエイティブラボ「PARTY」のCCO・伊藤直樹氏。同社では、デジタル、リアルを問わず、「体験のデザイン」を事業としている

    「僕は編集者とは名乗ってないですけど、編集者気分ですね」そう語る伊藤氏が、セッションのなかでキーワードとして用いていたのが「見立てる」という言葉でした。その事例として、伊藤氏が3Dプリンター・スキャナーを使ってオリジナルフィギュアをつくる店をプロデュースする際、家族の思い出を残すための21世紀の写真館と見立てたことを挙げました。「ユーザーの気持ちになって考えた場合、未知の体験だとその分だけ障壁も大きい」と語る伊藤氏。そこで、誰もが一度は体験したことのある既存の体験と組み合わせることで、誰でもストレスなく体験ができるようデザインしたそうです。これは、ユーザーにとって最適な体験をデザインするために、編集視点が用いられた事例であるとともに、「Editorial Thinking」を形にするためのアプローチ方法なのだと感じました。

    横石崇氏

    「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人オーガナイザー/& Co.,Ltd(株式会
    社アンドコー)代表取締役・横石崇氏

    一方、横石崇氏は「人」との出会いにフォーカスしています。横石氏が手がける「TOKYO WORK DESIGN WEEK」は、働き方を考えるカンファレンス・フェスティバルとして、過去3回の開催で、のべ1万人を動員。毎年、業界の垣根を超えて多種多様なゲストを招き、トークセッションやワークショップを行なっています。

    イベントの企画やキャスティングを行う際に意識しているのは、「人」を起点にして考えることだと話す横石氏。「元々はジャンルレスで人が集まってくると、どういう反応が起こるのかなと思ってはじめたもの。僕は『変態に会いに行く』ということを人生のミッションにしていて、そうして出会ったばかり人たちを中心にプログラムを考えるようにしていますね」(横石氏)

    「面白い人に出会いたい」という好奇心とその人たちへの共感から、出会った人をつなげてイベントとして構成する。これはまさに人と人の出会いの編集です。異なるコンテクストを持った人をつなぎ、新しい価値が生まれる場を創出しています。これも「Editorial Thinking」を形にするうえでとても面白いアプローチだと思いました。

    セッション2 僕たちはどのように世界を『編集』してきたか

    僕たちはどのように世界を『編集』してきたか

    最後のセッションのファシリテーターを務めるのは、BUSINESS INSIDER JAPAN 創刊編集長の谷古宇浩司。ゲストに、株式会社アールストア代表取締役浅井佳氏と、AR 三兄弟の川田十夢氏を迎えました。

    「編集」が、コンテンツづくり以外にも多様な意味を担うようになってきていることを実感。さらに最後のセッションでは、編集視点がどのようにイノベーションに取り入れていけばいいのかに議論が集まりました。

    川田十夢氏と浅井佳氏

    (左)AR 三兄弟・川田十夢氏。有名アーティストやパリファッションショーなど
    の演出を行う。(右)株式会社アールストア代表取締役・浅井佳氏。セレクト物件を紹介
    するWeb サイト「R-STORE」を運営し、BOOK AND BED TOKYO など個性的な物件の
    プロデュースも手がける

    キーワードとなったのは「生活者視点」。海外の企業はユーザーの体験イメージをベースに製品やサービスをデザインしているという意見の一方で、日本の企業は自社の都合のことばかりを考えていて、生活者視点の発想ができていないとの見方も飛び出しました。

    また、近年話題になっているAIやIoTといったテクノロジーにについて、「大きい物語を書きたくなるんですけど、もっと素朴な、生活者の視点から考えないと、新しい体験は生まれない」と浅井氏。川田氏は、具体例として病院などの待ち時間などを挙げて「生活者が並ばずに、サービスを受けられるようにするのもテクノロジーの一つの役割だ」。さらに「VR・AR技術を用いて建築前のホテルを体験する。こうした取り組みがさまざまな領域で行えるようになれば、ユーザーにとってのブラックボックスがなくなっていく」と続けた。

    イノベーションと聞けば、何か劇的に世界が変わるような印象があります。しかし、その時に忘れてならないのは、ユーザーの立場になって考えるということ。編集者が読者の視点でコンテンツをつくりだすがごとく、ユーザーの生活を刷新するイノベーションは、ユーザーのインサイトを深く掘り下げた末に導かれるものなのだと痛感しました。

    イベントを終えて

    登壇者それぞれが、何かに共感し、そして誰かの共感を生むためにさまざまなアプローチを繰り返していました。また、ビジネスにおいて「編集」という言葉はただコンテンツをつくりだすことにとどまらず、もっと多義的になっているということを痛感。さらには、社会に新しい価値を創出しているイノベーターたちが「編集」という概念を用いているという事実にも。それは必ずしも「編集」という呼び方ではなく、「見立て」「場づくり」といったアプローチによって、数々のイノベーションにつながっています。イノベーションに注目が集まる今、編集という視点がビジネスにブレイクスルーをもたらすことを予感させられるイベントでした。

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