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TOA(Tech Open Air)2017とベルリン視察ツアー・レポート Part 1

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スタートアップ都市ベルリンに来た、見た、驚いた! ( Veni, Vidi, Admiratio!): 起業エコシステムを探訪する

さる7月11日から14日(開催期間:展示は12日と13日のみ)、ベルリン最大の分野横断型テック・カンファレンス「TOA(Tech Open Air)」がドイツのベルリン市で開催されました。TOAと日本でのイベントを共催するとともに、出展支援等も行う日本のパートナー・株式会社インフォバーンは、日本の皆さんにTOAの魅力を知ってもらおうと、公式視察ツアーを開催期間中に実施しました。(共催:株式会社JTBコーポレートセールス)

公式視察ツアー日程

ツアー期間:7月10日(月)~7月16日(日)
Part 1(本記事)では2日目の7/11(火)の活動についてご紹介します。

7/10   :移動(羽田空港~ベルリン)
7/11   :オフィス・施設訪問
7/12   :TOA視察
7/13   :TOA視察・施設訪問
7/14   :TOA視察、施設訪問
7/15, 7/16  :移動(ベルリン~東京)

越境ハッカソン「Hackatrain」と遭遇、有名シェアサービスAnyVanを知る

11日には、まず視察団はTOA本社が入居する、大型コ・ワーキングスペース「Ahoy !」を訪問しました。そこで、TOAのスタッフによる、TOAの成り立ちや今年の見どころについてのレクチャーを受けました。当日には、オランダのアムステルダムから列車でやってきて、Ahoy ! でハッカソンを行い、また列車で帰って行くという36時間耐久ハッカソン「Hackatrain」というイベントが進行し、にぎわいを見せていました。

同施設に入居するスタートアップ企業にも触れることができ、なかでも、英国発の有名なユニコーン企業「AnyVan」のカントリー・マネージャーから同社についての説明を受けました。

彼らが提供する「AnyVan」は運送業におけるUberのようなもので、シェアリング・サービスのひとつです。多くの中小配送業者が登録をして、コンテナが空いているときに安価にユーザーの荷物を運送します。つまり、ユーザーはAnyVanを通じて、もっともリーズナブルに荷物を運送してくれる配送業者を選ぶことができます。そして、現在AnyVanでは、配送スタッフに自社のブランドのユニフォームや配送車へのデコレーションを用意し、同社サービスを利用した人たちにAnyVanブランドを浸透させる戦略を打ち立てています。

Cavalry(騎士団)のごとく、アーリーステージのスタートアップを導くVC

次に訪問したのは、「Cavalry VC」というシード企業への投資を専門に行うVC(ベンチャー・キャピタル)です。一般的にレートステージと呼ばれるエグジット(投資家にとっての投資資金とそれが生み出す利益を回収する出口)間際への投資はローリスク、ローリターンになります。一方、起業間もないアーリーステージへの投資は、ハイリスク・ハイリターンであるため、大きな資金を運用するファンドよりも個人投資家(エンジェル)が出資する傾向となります。

そのなかでも、このCavalryがユニークな点は、パートナーに名を連ねる人たちが、有名なベンチャー起業家という点です。つまり、たくさんのエンジェルがCavalry(騎士団)という名の通り、隊列を成してスタートアップを導こうというのです。

当日に同社の説明をしてくれたマネージング・パートナーのステファン・ウォルター氏から、かなり濃密かつ専門的なお話が聞けましたが、ここでは割愛します(後日、報告会を行いますので、その際にレポートさせていただきます)。

ベルリンでは、IPO(株式公開)がエグジットとなるスタートアップの数は日本に比べて圧倒的に少なく、多くは大企業への事業売却が占めています。アーリーステージよりもさらに手前のプレシードの段階に、次のユニコーンに投資ができれば、それだけ早い段階でリターンを確定できます。そのため、近年はアーリーステージ専用のファンドを組成するWestTech VenturesのようなVCも現れ、“先物買い”ブームは過熱中です。

広すぎる!衣食住をすべてワンプレースに。次世代型コ・ワーキングスペースのSilicon Allee

3番目の訪問先は、「Silicon Allee」です。
こちらはお洒落なカフェが目抜き通りに面していますが、カフェを抜けると、目を疑うような広大な空間につながっています。7,500平方メートルの面積を誇るコ・ワーキングスペースとコ・リビングスペース(共同生活)の現代的な複合施設が、ここSilicon Alleeなのです。

もともとはベルリンのスタートアップ・シーンを伝えるブログだったSilicon Alleeは、2014年にベルリンきっての巨大テック・キャンパス「Factory」(グーグルとの提携でベルリン名物となりました)と合流。そして、2016年から本施設のオペレーションを開始し、ブログにとどまらず、実体のあるクリエイティブ・スペースを通してスタートアップ都市ベルリンを応援するにいたります。

施設内には、前述のカフェのほか、共同ガーデン、自然食品バー、ミートアップスペースなどが入ります。また、入居したいスタートアップが列を成しているなか、幸運にもすでに入居しているうちの1社に、科学者向けSNSとして知られるResearch Gateなどがあります。

東京でも数多いコ・ワーキングスペースですが、このSilicon Alleeのように衣食住すべてをパッケージングして、さらに有益なイベント等を催し、入居企業のインキュベーションを行うコ・ワーキングスペースは今後世界中で増えるでしょう。

卒業した企業の生存率60%以上! 巨大メディア企業によるアクセラレーション・プログラムに参加中の企業からピッチを受ける!

最後に向かったのは、世界最大規模のメディア・コングロマリット、アクセル・シュプリンガーのコーポレート・アクセラレーター「Plug And Play」です。

同社は欧州のメディア企業を傘下に収めるばかりではなく、米国やアジアのテック系スタートアップ企業への投資やオンライン・メディアの買収でも名を馳せており、次代に向けて非常に意欲的です。そんな同社がスタートアップ育成のプログラムを展開する拠点に訪れました。

その日は、同社のプログラムに参加中のスタートアップ企業10社以上からのプレゼンを受けました。

同プログラムは100日間行われ、世界各国から起業家の卵が応募します。プログラムを受けるには書類審査と面談をパスしなければなりません。そして、最終的に残ったプロジェクトがそこで鍛えられ、さらにアクセル・シュプリンガーやプログラムの提携企業から投資してもらえます。

今回、わたしたちにピッチを行うのは、ファウンダーか、CxOたちです。初めて外部の聴衆に向けて自社サービスを時間内に説明せねばならず、多くの人が緊張を漂わせています。一応、ピッチ・トレーナーから、聴衆に向けて「くれぐれも優しく接してね」とのお願いがありますが、なかには厳しい質問も。

実は、他社のピッチを聴くのは、自社事業について振り返るよい機会でもあります。コアはなにか、強みは何なのか、専門家でない人に向けて説明する際に、冗長すぎやしないか等々……、そんな白熱する現場を目の当たりにした視察団の興奮も覚めやみません。

 

以上、この日は翌日より開場するTOAに向けた、良いウォーミング・アップとなりました。ベルリンが初めてという参加者ばかりのなか、いきなり起業エコシステムのなかに引きずりこまれ、どのような感想をもったのでしょうか。

IDLでは9月14日(木)に開催予定の報告会で、参加企業の皆さまにも当日の様子や体験について語っていただきたいと思います。

次回レポートは、いよいよ12日からのTOAについてです。日本人の知らない豪華スピーカーやスタートアップがたくさん登場します。そして、TOAが数多あるトレードショーとなにが違うのか、また、なぜイノベーションを創発する新しいタイプのイベントなのか、そのあたりについても言及する予定です。

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小林弘人

インターネット登場以前のニューメディア時代から現在まで、常にITによって変容するメディア・コンテンツの開発やソーシャルメディアを利用したプロモーションに携わるなど、ITメディア界の仕掛け人として多方面で活躍中。メディアプロデュースと経営の傍ら、講演やメディアへの寄稿もこなす。著書に『新世紀メディア論——新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)、監修と解説を務めた『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)は翻訳書として異例の18万部を超えるベストセラーに。