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サステナビリティ経営を机上の空論にしないための「未来の見方」

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当記事では2022年8月4日に開催されたオンラインイベント「サステナビリティ経営を推進する『企業のメディア化』とは」のSession:2「サステナビリティ経営を机上の空論にしないための『未来の見方』」の内容をお届けいたします。「サステナビリティ経営は、果たして企業の利益につながるのか」という問いに『2030年のSX戦略』、『SXの時代』共著者・PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、リード 磯貝友紀氏をお招きして、株式会社インフォバーン 代表取締役会長の小林弘人が話をうかがってまいります。
※読みやすさを考慮し、動画や発言の内容を一部修正・補足してお届けいたします

目指すは、親亀・子亀共存ビジネス

小林弘人(以下、小林): みなさま、お待たせいたしました。今日は、書籍『2030年のSX戦略』、『SXの時代』を上梓されました磯貝友紀さんをお招きしております。

磯貝友紀氏(以下、磯貝): よろしくお願いいたします。

小林: さっそくですが、磯貝さんから自己紹介をいただけますでしょうか。

磯貝: 本日はこのような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。PwC Japanグループの磯貝と申します。まず簡単にPwCのご紹介からさせてください。私たちは監査法人を主体といたしました、包括的・総合的なプロフェッショナルサービスネットワークでございまして、世界156か国に約30万人のプロフェッショナルを有しています(2021年6月現在)。

磯貝友紀氏
『2030年のSX戦略』、『SXの時代』共著者・PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、リード 磯貝友紀氏

そして私が所属しております、サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスというチームは、複雑化していくクライアントのサステナビリティをめぐる経営課題にきちんとお答えしていくために、PwCが持つさまざまなケイパビリティ、すなわちコンサルティング、監査、M&A、タックスなどを横串で差しながら、さまざまな解決方法を皆さまにご提供していくということを役割としています。

私はこれまで25年ぐらいサステナビリティ分野でのビジネスをやってまいりました。最初の13年は国際開発を中心としたキャリアでございましたけれども、2011年にPwCに参画してからは日本企業向けのサステナビリティ経営をご支援してまいりました。 ここまでがオフィシャルな私の自己紹介ですが、アンオフィシャルな自己紹介もさせていただきます。

最近では多くのコンサルティング会社がこぞってサステナビリティをアピールしていますが、私自身はサステナビリティに対して、非常にパッションを持って、人生をかけてやってきました。ちょっと儲かってるからやってるコンサルタントではないことを強調したいと思います(笑)。

私が、なぜこのサステナビリティ関連の仕事を始めたのかということの原初体験をご紹介します。私は1975年生まれなんですが、1970年代前半の世界の課題と言えば、貧困でした。貧困と言えばエチオピアの大飢饉というぐらい、大きな飢餓問題が世界を揺るがしていました。テレビを点ければエチオピアの飢饉の問題がやっていた頃で、私自身もそうした番組を見る機会がありました。

テレビでは、お腹が膨らんだエチオピアの飢餓状態の子どもたちが映っていました。 私は3歳か4歳だったと思うんですけれども、父親と一緒にケーキを食べながら見ていたんですね。テレビのこっち側でケーキを食べながら、向こう側にいる飢餓の子供たちを見てるこのシュールな事実、それに対して子ども心にものすごくショックを受けて、こうした不公平なことがこの地球上に起きているとするなら、何らかの形で自分自身も解決に貢献していきたいという強い想いを持ちました。

もうひとつの非常に大きな出来事だったのは、1990年の湾岸戦争です。ちょうど私が生まれた1975年にベトナム戦争が終わった後、けっこう世界って平和だったんですよね。 大きな戦争もあまりなく、人類は歴史から学んで進化していくんじゃないか、平和になっていくんじゃないかという期待が世界を覆った時代だったかと思うんですが、それを打ち砕くかのように1990年にこの湾岸戦争が起きました。それで世の中に対して、自分も何かしなければいけないと思いました。

このふたつが原初体験として大きくあります。こうした体験を持ちながら、私自身は2002年から2006年はオランダで、2006年から2011年はアフリカで仕事をしてきましたが、 このふたつは非常に大きな経験になりました。

オランダは非常にサステナブルビジネスが進んだ国です。またアフリカでは、ものすごいパッションを持って現地の貧困問題を解決しようとしている、 ケイパビリティが高いビジネスマンの方たちにお会いしました。サステナビリティビジネスは夢物語じゃなくて、儲けている人たちがいる、儲かることを実感したことが大きな経験になりました。

さらにオランダは、非常にワークライフバランスの整った国です。そこで若い時を過ごしたということで、ワークライフバランスを保ちながら生産性を維持することは可能なんだということも経験しました。

現在、日本に帰ってきて、サステナブルビジネスを推進してるわけですけれども、これらの経験がひとつになって、日本の企業もサステナブルビジネスで儲けることができると信念をもってやっています。そして私たちPwCとしても、ワークライフバランスを保ちながら、私たち自身がサステナブルな仕事をしながら、きちんと生産性を上げて、クライアントの皆さまのニーズにお答えしていくことができると考えながら、活動を行なっています。

そうした意味で私自身も例えば18時以降はミーティングを入れないということを徹底するなど、サステナブルな仕事の仕方を実現していきたいと思っています。

今日は、私が上梓させていただいた『2030年のSX戦略』『SXの時代』の2冊の書籍から抜粋しながら、お話しします。

小林:ありがとうございます。続いて簡単に私も自己紹介させていただきたいと思います。私は、株式会社インフォバーンの共同創設者で代表取締役会長を務めています。また地方行政や他国の民間団体のアドバイザリー、公式パートナーを努めています。自著もあり、監訳や解説等を行っております。サステナビリティ関連の最近の活動をちょっとご紹介させていただきます。

小林弘人
株式会社インフォバーン 代表取締役会長・CVO, FOUNDER 小林弘人

小林:2015年にEUがサーキュラーエコノミー・アクションプラン(循環型経済行動計画)というのを発表したんですね。その2年後から、毎年ベルリンの視察プログラムを企画し多くの企業、自治体の方々を現地にお連れしまして、実際にサーキュラーエコノミーのハブや実践しているコミュニティなどにお連れさせていただきました。

また「GREEN SHIFT」というイベントを運営しています。コロナ禍のなかで始まりましたが、コレクティブインパクトといって異業種の人たちが集まり、社会課題解決を通じてひとつのイノベーションを織りなすプログラムです。企業、そして地方行政、 あるいは地域住民を巻き込んだ形で、サステナブルな社会のために新しいビジネス、やソーシャルイノベーションを生み出すための場を目指しています。昨年は長野県駒ヶ根市にて、天竜川のほとりで2泊3日のプログラムを運営し、日本全国から実践家の方たちに集まっていただきました。 また近々に予定したいと思っています。

そして、法務省さんと刑務所と一緒にソーシャルイノベーションを課題解決するための取り組みにも参画させていただきました。実はここでもサーキュラーエコノミーがひとつのキーワードになっていて、地域そして刑務所と一緒に社会課題を解決しようという動きがあります。官民連携で刑務所を運営する「PFI刑務所」という事業の推進のため、企業とのコラボレーションを促進するためのカンファレンスを今年3月にプランニングし、多くの方々にご参加いただきました。ということで、私の自己紹介を終わらせていただきたいと思います。

さっそくではありますが、本題に入りたいと思います。

サステナビリティという言葉がなかった時代から、磯貝さんは活動されてると思うんですけれど、今回、なぜSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代なのか。というところをご教授いただけますでしょうか。

磯貝: ありがとうございます。サステナビリティ経営というのは、3つの重要な価値から成っていると思います。ひとつは経済価値、そしてもうひとつは社会価値、そして環境価値。この3つが重要な概念としてあると思います。

サズテナビリティ経営とは

従来のビジネスは、この一番左側にあるように、経済と社会と環境はバラバラなものであると認識されていて、基本的に経済価値を生み出す=お金を儲けたらそれを少しだけ社会に還元していくものであると認識されてきました。時代を経るに従ってこの3つは実はバラバラではなくて、重なる部分があるという認識に変わり、さらに最近になってこの3つというのは、一部分重なるということだけではなくて完全に重なり合う3つの輪であると、そして単に重なり合うだけではなくて、依存構造にあるのではないかと、そういう認識が広がってきたと思います。

この3つの輪の依存構造を示しているのが、一番右側の亀の図で、これは環境である親亀の上に、社会である子亀が乗っていて、社会である子亀の上に経済である孫亀が乗っている。

結局、親亀こけたらみなこけるということで、環境、社会への慈善活動をすることではなくて、自分自身のビジネスの基盤を守ることであるという認識が広がってきたということかと思います。一方でこのような認識が急速に広がってきたのは、親亀がこけそうになっていることに対して世界中で危機感が高まっているからです。

ではこの親亀を守るためにこの孫亀も子亀も協力していく必要があるというのが、サステナビリティ経営が加速度的に重要性を増している背景にあります。

小林: ありがとうございます。この図はわかりやすく、昨今の豪雨による災害や戦争などによって物資の流通が止まるなど、ビジネスの持続可能性について、親亀と小亀について考えざるをえず、ビジネスパーソンとしてもひしひしと感じられる昨今です。ここで改めてサステナビリティ経営の定義を、磯貝さんはどのように解釈をされてますか。

磯貝: 一義的にはこの「親亀・子亀共存ビジネス」にしていくこと。そのためにきちんと資源配分を行なっていくというのが、サステナビリティ経営の根幹です。こう申し上げると多くの企業が、この親亀・子亀を守る方に集中してしまいますが、親亀・子亀だけ生き残っても、孫亀が息絶えてしまっては意味がなくなります。ですから、この「親亀・子亀共存ビジネス」にしっかり取り組んでいくことは、「親亀・子亀を守りながら儲けていこう」ということですので、儲けるというところを忘れてはいけないことを強調させていただきます。

小林: キーワードをいただいた気がします。共存という言葉がひとつ重要ですよね。「自分だけが尽くしてる」「守るんだ」だけでは、全員がこけてしまう恐れがありますね。

どうやってサステナビリティ経営で儲けるのか

小林:では、先ほどもお話にあった通り、どうやってサステナビリティ経営で利益を挙げて、経済価値を高めていくのか。平たく言うとどうやって儲けていくのか。その指標についてご教示をいただければと思います。

磯貝: サステナビリティ経営が一体どうやって儲けにつながっていくのか、というところに企業の皆さんが頭を悩ませているところかと思います。

SXを実現するための仕組みをつくる:②インパクトパス

この図はどんな構造で最終的に利益を生み出すのかを示すものです。サステナビリティ活動により、この図の真ん中に示す長期的な稼ぐ力が社内に蓄えられていく(ことにつながる)、そして最終的にそれはPLやBSにはね返ってくるということになります。

この長期的な稼ぐ力を、私たちは「プレ財務指標」または「プレ財務要素」と呼んでいます。これはもともと、欧州の先進企業を調査して抽出してきた概念で、長期的な稼ぐ力は大きく6つに分けることができる、と考えています。

例えば、食品会社が環境負荷を減らす農業をやることが、原材料やその調達力を上げることにつながる。将来的に他社が調達に汲々とする状況に陥ったときに、自社はしっかりした調達網を確保している、というように未来の稼ぐ力につながっていきます。

こうした「プレ財務要素」を社内に蓄えていくことは非常に大事です。この中でトップラインを伸ばしていくために最も必要となる力が上から4つ目の「評判形成力」です。これはいくつかの要素からなっていますが、その中の重要な要素はブランド力です。

サステナブルな活動をしていることを顧客や消費者に知ってもらって、ファンを増やしていくとか、新しいセグメントを掴んでいくとか、それがサステナビリティをトップラインにつなげていく非常に重要な要素となってくると思います。自社の活動が未来の稼ぐ力のどこを増やすものなのか、それをきちんと理解したうえで、投資、リソース配分をしていくのが大事になると思っています。

小林: なるほど。この評判形成力とは、まさにブランド力ですね。これによって企業価値全体を高めることで、優れた人材を引き寄せたりする力になりますよね。

磯貝: そうなんです、このドライバが相互に影響し合って未来の稼ぐ力をどんどん高めていくというのが、サステナビリティ経営の非常に重要な点かなと思います。

小林:長期的な稼ぐ力ってありますように、短期的な示唆では見誤るというか、間違えてしまいますよね。「それって儲からないんじゃないの」というのがよくある質問なんですが、長期的・中期的な視点が本当に大切なことかなと思います。

やらなければどうなるか、未来のコストを考える

小林:次は「SXのグランドストラテジー」についておうかがいしたいと思います。どのようなアプローチなのでしょうか?

SXのグランドストラテジー

磯貝: 今ご指摘いただいたたように、「儲からないんじゃないか」とおっしゃる方は多いです。しかも「儲からないだけじゃなくて、お金がかかる」と。「お金だけかかって儲からないんじゃないの」というのが、サステナビリティ経営が敬遠される大きな原因なのですが、本当にそうなのかをよく考える必要があります。

親亀・子亀と共存しようとすると、確かにコストやなんらかの投資が必要になりますが、その結果一体どんなことが起きているのか、自社がどんなメリットを得ているのかをきちんと把握しきれてないのではないかと思います。

この図の一番右側にあるようなサステナビリティ活動はやるとお金かかるけれども、ではやらなかったらどうなるのかと。

例えば、環境をどんどん汚染していった結果、操業に必要な資源がなくなってしまう。そしてそこから撤退しなくてはいけなくなるかもしれない。例えば、安くていいものを作るために、サプライチェーンの中で、途上国の工場で人々が劣悪な環境で働かされてたとしてもしょうがないと容認していると、一体どういうことが起こっていくのか。今の時代、あっという間にSNSで拡散されて、不買運動が起きてしまいますし、政府の規制も強まっていますから、人権に関する捜査対象になってしまったり、輸入を禁止されたりといったことにもつながってしまうでしょう。

サステナビリティ対応にコストをかけずに放置していると、売り上げが減ったり、逆にコストが増加したりするんですね。 ここのところを見誤って単に短期的な売り上げがどうなるのかということだけを見ていると、サステナビリティというのは単にお金がかかる部分しか見えてこない。

サステナビリティ活動による利益の考え方

サステナビリティが本当に儲かってるのかを考える際には、この図で示す通り、かけたお金に対して、純粋なトップラインの増加だけではなくて、それによって回避できたコストを足し合わせた上で、投資に見合うものなのかをきちんと考えていただくことが重要だと思っています。

小林: 「未来の損失をどう評価するのか」、 なかなか可視化が難しい問題です。もちろんPwCでそれを(ビジネスとして)提供されてると思いますが、やらないことのリスクという観点は、抜け落ちがちなポイントですね。

磯貝: おっしゃる通りだと思います。この考え方は欧州の先進企業に調査をして作ったモデルです。欧州の企業は、ものすごい金額をサステナビリティ活動に支出しています。これだけお金をかけているということは、それに見合ったビジネス上のメリットがあると考えているわけです。それは一体何なのかを紐解いたのが、先ほどご提示したインパクトパス、未来の稼ぐ力の図になります。欧州企業はもう当たり前のようにこういうことをやってきたのです。日本企業も、こういう考え方をきちんと取り入れた上で「親亀・子亀共存ビジネスモデル」を正しく考えていく必要があると思います。

小林: 欧州の企業は歴史が古く、100年、200年と伊達に続いてるわけではないので、長期的視座でビジネスを捉えています。ある大手アパレルメーカーなんかも、ものすごい投資をして自分たちの調達先の見直しから、現状の情報開示を始めてるんですね。 現段階で100%、このサステナビリティ経営ができていなくても、どういうロードマップでそれを達成していくかというディスクローズもすごい充実していて、正直驚きます。

磯貝: 日本の方々はつい100点を取らないといけないと思いがちですが、今おっしゃったように、100点じゃなくてもいいから「こういうことを目指している」「そこをどうやって達成しようとしているのか」ということをステークホルダーの方々と共有していく、一生懸命真摯に向き合ってる姿を見せていく、というのが非常に重要だと思います。

サステナブルに関心がある消費者は40%。これをどうとらえるか

(左)小林弘人、(右)磯貝友紀氏

小林: 重要なところなのでいくつか質問させていただきたいんですけれど、 この「サステナビリティ経営」は、1社だけではどうにもなりませんよね。 調達先や取引先、もちろん消費者もそうですけれど、マルチステークホルダーとの協働が重要です。皆を巻き込んでいかないと、達成できないことが多々あるんじゃないかなと思うんですけれど、ここでもブランド力ってすごい重要ではないでしょうか。

磯貝: そうですね。巻き込んでいくこと自体がブランドを作っていくことになると思います。まさに欧州で先進的と呼ばれている企業というのは、NGOや現地の国際機関などを上手に巻き込みながら、コマーシャルなどでは発信できないような、生のブランド、手触り感のあるブランドというのを現地で作っていらっしゃる。それはほんとに重要な価値だと思います。

小林: つまり、僕らの言葉で言うとナラティブというか、語り部の力のようなものですね。CMのように綺麗にパッケージ化された見せ方だけではなくて、肉声で伝えていったり活動をしていったりという見せ方が必要になると思います。地道ながらも、すごい重要ですよね。

磯貝: そうですね、共同作業、エンゲージしていくということだと思います。

小林: プロセスの段階からブランドを作っていくっていうことも、ひとつ戦略として加えられるということですね。

磯貝: おっしゃる通りだと思います、そこがすごく大事だと。

小林: 世界の企業のブランド調査をされたと思うんですが、事例をお伺いできますでしょうか。

磯貝: サステナビリティに関していろいろな企業をご支援させていただく中で、皆さんが一歩踏み出せない理由として、「こんなことやっても買ってくれる消費者いますかね」というのが、すごく大きな足かせになっていたんですね。

その他にも、例えばサステナビリティの担当の方たちが、サステナビリティの重要性を一生懸命社内で発信しても「フロントの人たちが全然動いてくれません」と。やっぱりフロントの人たちからすると「儲からない、こんなの作ってもお客さん買ってくれませんよ」と。そういったことを受けて、本当にそうなのかをきちんと検証する必要があるということで、ブランド調査、消費者調査を行っています。

その結果には、大きくふたつの重要な示唆があります。皆さんが感じていらっしゃる通り、日本では世界に比べると、サスナビリティに関心のある消費者の割合は少なくなっています。全体の約40%なのですが、 日本だけが少ないのです。

サステナビティに関心のある消費者というと、やはり欧州が多くて、その他の国は少ないのではと思われるかもしれませんが、そうではなく、中国やアメリカでも、日本よりも圧倒的にサスナビリティに関心のある消費者は多いです。

日本で自分の周り、そして自分の同世代だけを見ていると、世界のサステナビリティ消費の趨勢は見誤ってしまう、というのがひとつの重要な示唆かなと思います。

もうひとつは、日本は世界に比べて少ないとはいえ、40%はサステナビリティに関心のある消費者がいるわけです。この40%を多いと見るか、少ないと見るか。この40%を取りに行ったら、そこそこのボリュームになります。

小林: 結構なボリュームですね。

磯貝: そこを真剣に取りに行くことをどうやったらやれるのか、その40%の人たちがなぜサステナビリティ商品を買っていないのか、買い続けていないのかをよく考える必要があります。

小林: なるほど。そのあたりを推理できる理由はありますか?

磯貝: 調査からは大きくふたつが出てきています。ひとつはサステナビリティを謳っている商品はサステナブルな価値だけを売り出していて、「おいしくない」とか「質が悪い」とか、他の価値が劣後しているのではないかというイメージがあります。消費者は質への妥協はしたくないと思っているということです。おいしくて、可愛くて、品質も良くて、そしてサステナブルなものを求めているということだと思うのですが、そうした商品がきちんと提供できてないというクオリティの問題があります。

もうひとつは、商品へのアクセシビリティの問題です。欧州ではサステナブルな商品に多数の選択肢があって、近所のスーパーで簡単に買うことができますが、日本では、特別なスーパーに行く必要があったりして、欲しいけれど買えないという層もたくさんいるのです。

この2つの壁を乗り越えてあげると、先ほどの40%のサステナブルに関心のある消費者に、きちんとリーチできるのではないかと強く思います。

小林: なるほど。そのふたつのポイントは面白いですね。ここに向けてのアプローチを頭の中で、練りあげてみます。

磯貝: ぜひぜひお願いします。また教えてください。

スタートアップにも大企業にも、それぞれの取り組み方がある

小林: 先ほど、企業の中でも、例えば営業の方からクレームが付いたりみたいな話がありました。顧客に届ける前に、まずは社内で理解してもらう、受け入れてもらうための基本的なアプローチについてアドバイス等ございましたら、教えていただきたいです。

磯貝: 繰り返しになるかもしれませんが、(フロントの人たちは)やっぱり「儲かる」ことに腹落ちしていない。それにはどうしたらいいかというと、先ほどのインパクトパス、未来の稼ぐ力の図で、サステナビリティ活動がどんな風に評判形成力につながってくるのかというパスをしっかり数字で見せるのはひとつ有効な手段だと日々感じています。

磯貝友紀氏

私たちもクライアントの皆さまに、サステナビリティ活動がどんな風に消費行動に影響するか、どんな風に価格プレミアムに影響するか、数値をご提示するサービスを提供しています。それをご覧いただくと 「こんな風にお客さんが変わってくれるんだったら、やった方がいいんじゃないの」とわかっていただけますので、やはり数字で見せるのはひとつ大事なことかと思います。

小林: なるほど、 わかりました。それからもう一方で、消費者への啓蒙を企業が率先すると、出来レースのように見えがちですけれど、まずはメディアにも理解を促すことが重要なのかなと思いました。

それから評判形成力。これは事業部だけでやっていても難しいので全社一丸となって、それを推進していくのも重要かなと思っています。国内でも海外でもいいんですけれど、そこに成功している企業、あるいは、ここはちょっと注目したいなっていうところを、企業のお名前を出さなくてもよいので、ヒントを我々に与えていただければと思います。

磯貝: オランダにあるチョコレートの製造専門の企業で、15年ぐらい前に立ち上がった、スタートアップがあるんです。チョコレートのサプライチェーンは、アフリカでたくさんの児童奴隷が使われているなど、いろいろな問題があります。 そうした問題に取り組んで、チョコレートを製造し販売しています。

同社の創業当時は、サステナビリティが徐々に欧州でも注目を集め始めて、大手のチョコレートメーカーがこぞって認証チョコレートを出した時期だったんですね。しかし、当時のオランダのテレビ番組で、実は認証を取っていてもサプライチェーンを辿っていくと、すごくたくさんの児童労働者がいて、環境破壊はまだ起きているということが報道され、認証ってうさんくさいのではという雰囲気が蔓延してしまっていました。

その時、認証に頼らずに、自分たちでサプライチェーンを精査して「児童労働を使わずに、環境にいいチョコレートを売ります」と売り出したのですが、その時に彼らが取ったコミュニケーション戦略がとてもユニークでした。

先ほどおっしゃったことにつながりますが、児童労働がないということではなくて、むしろ「今年、児童労働者が何人見つかりました」「これをなくすために、今年はこういうことをします」ということを開示し、非常に透明性の高いコミュニケーションを行ったのです。

そのことによって「サステナビリティ商品って、うさんくさい」といった、消費者の疑いの目を払拭することに成功したのです。

小林: パッケージが可愛いんですよね。

磯貝: すごくポップで可愛いパッケージで、とてもおいしいんです。先ほど申し上げたことに通じるんですけど、おいしくて、可愛くてそして環境や社会にいいということで爆発的に売れ、創業から6年ほどで大手を抜いてオランダでシェアナンバーワンのチョコレート会社になって、北欧でも大進撃を遂げて、最近は日本にも輸入が始まりました。

小林: なるほど。僕も実はアムステルダム在住のサーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんに、(そのチョコレートメーカーの)実際のパッケージと中身を見せていただいたんですけれど、チョコレートがギザギザしてるんです。普通の板チョコって、パキって割れるように長方形だったり、きちんと幾何学的に美しい感じが多いと思います。(そのチョコレートが)なんでギザギザなのかというと、「そんなに割り切れない業界だから」と、そんなメッセージがあるそうです。

磯貝: 知らなかった(笑)。

小林: (そういうところも含めて)すごいなと思いまして。 先ほどのプロセスを見せていく力っていうのかな。日本だとどうしても「臭いものには蓋」をしてしまいますが、 でも(児童労働者が)何人見つかったとか、こういうことが発見されたんでこう改善していきます、という発信をしています。これが「攻めの情報開示」としてすごく素晴らしいなと思いましたね。

磯貝: この会社はそういう開示をした一方で、一般的な広告ゼロで売り上げナンバーワンになったんです。クチコミや、可愛いパッケージを利用した店舗などだけでどんどん売れていったっていうことで、 新しいいやり方ですね。

小林: では、僕の方からも1つ事例を紹介させていただきます。

イギリスのランカシャー地方で運営している「Recycling Lives」という会社があります。先ほど冒頭にご紹介した法務省さんのカンファレンスでも登壇いただいたんですけれど、町で出る廃棄商品、例えば自転車とか、パソコンなどをリサイクルしてもう1回市場に戻していく、いわゆるリサイクラーの分野で急成長を遂げています。

実はそのリサイクル事業で、刑務所の受刑者の方々とコラボレーションしてるんですね。イギリスでは、リサイクルに国家資格があるのでその資格を受刑者に取ってもらって、出所した後は自分たちの会社に就業してもらうという取り組みをしています。

今、7つぐらいの刑務所でそのプログラムが動いていて、売り上げも大きく伸ばして今後も拡大する予定だそうです。売り上げとその地域社会にも貢献し、ゴミの廃棄を減らすことでサーキュラーな活動もしていて、なおかつ受刑者の再犯防止に役立つということで、とても理想的な形を実現している会社です。

他に、磯貝さんからご紹介いただける事例はありますか?

磯貝: 大企業の皆さんの「スタートアップだったらできるよ。でも、うちはもう母体が大きいからね」というご意見も耳にしますので、アメリカの大手のクレジットカード会社のアフリカでの試みをご紹介します。クレジットカード会社から見るとアフリカは、若い人が多く経済成長が進んでいて非常に大きな市場になる。これから2050年に向かって大きくなっていくのはもう確実ですが、まだまだ貧しい地域もあります。

一方で、今すごい勢いで現地の若者たちが、スタートアップで「ディスラプティブ・イノベーション」を生み出しています。既存の金融がなくても自分たちで送金の仕組みを作っていたり、市場がどんどんそうしたスタートアップに早期に取られていったりする状況があるのですが、そうした中でこのクレジットカード会社は国連との取り組みを実施しました。

飢饉が起きると、国連がいろんな食料物資を援助しますが、今までは紙で配られるバウチャーを持って物資を取りに行く。それで何が起きるかというと、支援を受けた物資が実はそんなに現地の人が好きな食べ物でないことがあるわけです。おいしくないと、その食べ物をもらったらどこかで牛の餌などとして売って、そのお金で何か別の食べ物を買うといったことが起きていました。

そのクレジットカード会社は、国連と共同でプリペイドカードの形でお金を配ることにしました。それで自分の好きなものを買え、人としての尊厳を保ったまま、必要な支援を受けることができる。そしてそのカードは彼らが人生で初めて持つカードになるわけです。統計上、人は人生で初めて持ったカードを生涯使い続ける確率が6割と言われていますから、カード会社にとっては将来の顧客獲得にもつながります。

大手企業からすると、アフリカは2050年までには大きな市場になる。そこに、今入り込むために何をしなくちゃいけないのかという中長期的な目線で考えると、大手であってもできることは多いと思います。

小林: それは驚きですね。認知の面でもかなり大きい(接点となっている)し、またそういったことでこの会社はいい会社なんだという認識を得られますね。

磯貝: すり込まれますよね。

小林: もっとお話していたいんですけれど、お時間がきてしまいました。今日お集まりの方々に、磯貝さんからメッセージやアドバイスがございましたらお願いします。

磯貝: やはりサステナビリティ活動をやっているだけではなく、 それをどうやって人々に知ってもらい、そしてそこに価値を感じてもらい、ファンになって、買ってもらうかという点で、マーケティングやブランディングの果たす役割は非常に大きいと思います。

その果たす役割は大きいけれど、今までと同じような訴求の仕方で「うさんくさい」といった印象を与えてしまっては、結局逆効果になります。自分たちのサステナビリティを巡るストーリーをお客さんや、地域、社会の人やいろいろなステークホルダーにどう理解してもらうのか。メッセージの中身と伝え方の両方を、今までと違う視点で考えていただけると、大きな価値を生み出せるのではないかと思います。

小林: ありがとうございます。磯貝さん、本日は本当に貴重なお話をどうもありがとうございました。

磯貝: ありがとうございました。

※この対談の模様は動画でも公開していますのでぜひ御覧ください

このイベントを主催したインフォバーンでは、新しい価値を生み出すための情報発信をご支援しています。「成功するオウンドメディアづくり」を始めとするコミュニケーション施策の事例についてはこちらでご紹介しています。情報発信に関するご相談・お悩みがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

SESSION 3
サステナビリティ経営で重要度を増す広報の役割〜経営者・広報担当がまず取り組むべき一歩とは?

SESSION 4
情報発信が企業の価値をつくる ー これからの広報が担う「プロセス開示」への道筋ー

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。