プロジェクト概要

パナソニック株式会社デザイン本部が主導で実現を目指す哲学的な概念「Becoming with」を、今後の目指すべき方向性を示すキーワードとして事業にどう落とし込むか、その検討を支援しました。本プロジェクトは「Discover(発見)」と「Define(定義)」の2段階で構成され、専門家へのインタビューやワークショップを通じてパナソニックデザインにおける「Becoming with」の状態を定義し、その実現に向けた要件やアクションなどといった具体的な指針へ落とし込みました。

課題 ・「Becoming with」についてパナソニックデザインにおける意味を定義し、事業への実装に向けた共通認識を形成したい ・「Becoming with」という抽象度の高い哲学的な概念を、実行できるデザイン戦略に落とし込みたい 成果 ・パナソニックデザインならではの「Becoming with」の仮定義を策定 ・抽象的だった「Becoming with」を、デザイン戦略として活用できるよう具体的な要件として言語化し、構造化

クライアント

パナソニック株式会社 デザイン本部

担当領域

インタビュー
ワークショップ
ビジョン策定

期間

2023年10月〜2023年12月

難解なお題ながら、学問的な視点から実践への接続ができたのは、両社で丁寧に向き合い、信頼関係のもと進められたからだと感じています。

パナソニック株式会社デザイン本部 浅野 花歩様

抽象的な概念をかみ砕きながら専門家へのインタビューをリード頂いたことで、アカデミックな文脈での理解が深まりました。またワークショップでは、「Becoming with」である/でない状態を出し合うワークを設定頂いたことで、メンバー同士で腹落ちしながら解釈を共有することができました。メンバー内で、「これはBecoming with的だよね」というような会話ができるようになったことに大きな変化を感じています。ご支援頂きありがとうございました。

パナソニック株式会社デザイン本部 明石 啓史様

プロジェクト詳細

Ethicalな未来の実現へ。「Becoming with」の姿勢でつくる、人間中心の先のデザイン

パナソニック デザイン本部内のXDC(トランスフォーメーションデザインセンター)は、短期から中長期まで、事業・顧客課題の特定と新たな事業機会の発見を通して、事業変革を支援する組織です。社会や人々のくらしの変化を深く洞察し、多様な社会におけるケアの在り方から事業におけるDEI、サーキュラー転換モデルの設計、展博や街づくりまで幅広い領域で、デザインを通じた解決策を模索・提供しています。

パナソニックデザインでは「Ethical」というキーワードを軸に探求を深める中で、人間中心のデザインだけでは捉えきれない複雑な社会課題があることに気づきました。その課題を乗り越え、より良いかたちで「Ethical」な未来を目指すためのアプローチとして、人間以外の存在とも関係性を築きながら共に未来を創り上げていく「Becoming with(共-生成)」という包括的な概念にたどり着きました。

このプロジェクトの目的は、フェミニズム哲学者のダナ・ハラウェイが提唱する「あらゆる存在が相互依存的な連関の中にあって、個体を他者や環境と分離して捉えることはできない」という「Becoming with」の本質とアウトラインを理解し、パナソニックデザインにおけるその意味を定義した上で、具体的なデザイン指針に落としこむことでした。

実施プロセス

インフォバーンは、抽象度の高い哲学概念を企業の具体的なデザイン戦略として落とし込むため、調査・分析、ワークショップ設計、そしてファシリテーションを一貫して担当。パナソニックデザインのチームメンバーの一人ひとりが「Becoming with」を解釈し、自社の事業に実装していくための探求を行っていきました。

このプロジェクトは大きく「Discover」と「Define」の2つのフェーズで構成されています。外部の専門家からの知見と、パナソニックデザイン内部の知見を適切に統合し、議論を深める場を設計し、ファシリテーションしました。

プロジェクトの進め方を示すロードマップ。「キックオフ」「インタビュー」「リサーチ整理」「状態の定義」という4段階のプロセスが図式化されている。

Discover|発見

専門家インタビューにより、学術的概念をビジネス文脈で解釈

「Becoming with」の概念を深く理解するため、この領域の専門家へインタビューを設計・実施しました。これにより、学術的な概念をパナソニックのビジネス文脈で解釈する手がかりを得ています。

インタビューの設計においては、「Becoming with」やその提唱者であるダナ・ハラウェイ氏の研究を行う専門家が限られている上に、思想そのものが難解なため、多角的なリサーチが不可欠でした。そこで、リサーチによって「サイボーグ」「マルチスピーシーズ」「リジェネラティブ」「脱人間中心主義」「ケア」といった周辺キーワードを特定。

これらのキーワードについて知見のある4名の専門家を選定し、「Becoming with」の本質と、それがパナソニックの未来のモノづくりにどう影響し得るかを多角的な視点で紐解き、「Becoming with」の定義や、体現に必要な考え方・アクションをまとめていきました。

「ハラウェイの提唱するBecoming withの意味」と題された2枚のスライド資料。手前のスライドでは「Care」「Intra-action」など、Becoming withを体現するために必要な6つの考え方やアクションが定義されている。奥のスライドでは「個体同士で生きるのとは全く違う、生の質が変わる出会いと創発」という定義と共に、その概念が図解されている。

Define|定義

専門家の知見を共通認識へ。パナソニックデザインにおける「Becoming with」を定義

ワークショップは、インタビューで得られた「Becoming with」に関する知見を基にチーム内で認識を合わせ、今後パナソニックデザインが掲げるキーワードとして、どのように「Becoming with」を解釈し、発信すべきかを決める目的で行われました。

「Becoming with」という概念を、203X年の社会に向けてパナソニックデザインが目指すべき方向性を示すキーワードとして、「Becoming withである状態」と「Becoming withでない状態」を明確に定義し、共通認識を形成。 合意形成された定義を基に、「Becoming with」をキーワードとして掲げる上で乗り越えるべき課題やその解決方法、今後の社内外への浸透に向けたコミュニケーション方法を検討しました。

「Becoming With」の定義を検討した2日間のワークショップの記録スライド。DAY1ではリサーチ結果を整理し、DAY2では「BW(Becoming With)である状態」を具体的に定義するセッションを行った様子が示されている。

最終的には、この定義をもとに、「Becoming with」であるための具体的な要件や、体現に必要な考え方・アクションまでを構造化し、チームメンバーが意思を持って使っていく道筋を立てました。これにより、パナソニックデザインにおいては抽象的だった哲学的な概念が、事業の中で活用できる具体的なデザイン指針へと落とし込まれました。

パナソニックデザイン資料より

成果と展望

パナソニックデザインは「Becoming with」という考え方、姿勢を社内外に浸透させるための取り組みとして、メディアの立ち上げ、トークセッションなど各種イベントの開催、実務に繋げるためのワークショップなど実際の「実践の場」づくりを進められています。

インフォバーンは、今後もこのような抽象的な概念やビジョンを、企業・事業の持続的な成長と社会課題解決につながる具体的なデザインのコンセプトへと昇華させるためのパートナーとして、企業のイノベーションを支援してまいります。

制作体制

プロジェクトマネージャー|阿部 俊介
デザインリサーチャー|平岡 さつき
プロジェクト監修|辻村 和正

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