
「カンロ飴」「金のミルク」「ピュレグミ」などでおなじみの老舗キャンディメーカー・カンロは近年、コーポレートブランディングに力を入れている。カンロ全体のファンを増やすため、原宿にオープンした直営店「ヒトツブカンロ」やコミュニティサイト「Kanro POCKeT ×(カンロポケットクロス)」を運営するなど、CX(カスタマー・エクスペリエンス)を重視したさまざまな施策を展開してきた。
そんなカンロが、このたび社員に向けてカルチャーブックを制作したという。その制作パートナーを務めたのは、2024年から同社のコーポレートブランディングやマーケティング活動を包括的に支援してきたインフォバーンだ。「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」というパーパスのもと、誕生したカルチャーブックにはどのような想いが込められているのか。
カンロでマーケティング本部長を務める内山妙子氏、同本部CX推進部係長の室伏梨華氏、人事・総務本部長の西ヶ谷宏子氏。そして、インフォバーンからはアートディレクターの上野菜美子氏とデザインストラテジストの西原雄一氏。プロジェクトを推進し、約1年にわたる制作期間を経て、意義ある成果物を生み出した5名に話を聞いた。
※本記事は、2026年3月11日にBusiness Insider Japanで公開された記事の転載です。
統一感あるコーポレートコミュニケーションには、社員の道しるべとなる手引書が必要
――まず、カンロがコーポレートブランディングに注力するようになった背景から教えてください。

内山妙子(以下、内山):糖質制限ブームが広がり、「糖」の価値が揺らぐなかで、カンロの原点を見つめ直した結果、やはり我々の核にあるのは糖であるという結論にいたりました。
糖の可能性を信じて歩むべく、2017年に「糖から未来をつくる。」というコーポレートメッセージを策定。その後、コロナ禍を経験したことで企業としての存在意義をあらためて考えるようになり、2022年には「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」というパーパスに刷新しました。
おかげさまでグミ・のど飴の売上は好調で、業績は右肩上がりに成長しています。それは昨今のグミ人気によるところも大きいのですが、市場の伸長に依存するだけでは、ガムのように市場自体が衰退したときに太刀打ちできません。そうした理由もあって、個々の商品だけでなく、カンロという企業自体を好きになってもらえるよう、カンロブランドのファンを増やす取り組みを継続しています。
――社外に対して積極的なコミュニケーションを図る一方で、今回は社員に向けた「カルチャーブック」を制作されました。そのきっかけは?

内山:マーケティングの現場において、SNS発信や制作物のトンマナが担当部門によってバラバラになっているという課題がありました。一貫性のある社外コミュニケーションを実現するには、カンロとしての統一感が必要です。そのための道しるべとなる手引き書をつくろうと考えたことが、プロジェクトの出発点でした。
その手引書がどうあるべきかと議論を重ねていくなかで、私たちは単なるルール作りを超えた、本質的な目的に行き着きました。それは、迷ったときに立ち戻れる「共通の判断基準」を定義することで、「社員一人ひとりが顧客起点で自ら判断し、行動できるよう支えること」です。
この手引書のあり方自体が、「中期経営計画2030」(以下、中計)に掲げた「創発的な組織の更なる進化」を具現化する鍵になると確信しました。核に据えたのは、新たに定義した「ブランドパーソナリティ」。既存のパーパスやビジョン、クレド(行動指針)も含め、いかに具体的な行動や判断のものさしへと落とし込むか。そこに徹底してこだわりました。
せっかく作るなら全社員のためになるものをつくれたらと、マーケティング本部だけで進めずに、人事・総務本部に声をかけ、プロジェクトに加わってもらうことにしました。
苦労したのは、人事とマーケティングの目線合わせ
――編集方針など、初期の段階から重視していたことは?

西原雄一(以下、西原):カンロのCX推進やパーパスビジュアルの制作などをサポートしてきたインフォバーンに、このプロジェクトのご相談をいただいたのは、2024年12月でした。そのころは「ブランドブック」と呼んでいましたが、一般的に社内に向けた制作物は、トップの考えや方針を社員に浸透させるためのツールとして使われることが多いものです。
ところが、カンロさんはそれとは真逆で、「社員が自律的に行動するための本にしたい」というご要望でした。そのため、トップダウンではなく「ボトムアップを心がけること」、そして専門的なビッグワードは使わずに「誰にでもわかる言葉で表現すること」などを編集方針に定めました。
――マーケティングと人事、異なる部署がひとつのプロジェクトを進めるのは、大変だったのではないでしょうか?

室伏梨華(以下、室伏):人事のみなさんに参加してもらったのは2025年6月末からですが、まず目線を合わせることにかなり時間がかかりましたね。

西ヶ谷宏子(以下、西ヶ谷):「どんなブランドでありたいか」というブランドパーソナリティと、「どう振るまえば目指す未来を実現できるか」というクレド(行動指針)をどのように紐づけるか。この部分のすり合わせは特に苦労しましたが、インフォバーンさんからも助言を受け、CXと人事のメンバーがそれぞれ積極的に意見を交わし、納得できるまで話し合いました。
そうしてブランドパーソナリティに基づいて、行動指針を具体的な「日常における振るまい」に落とし込んでいくうちに、より一層「これこそがカンロのカルチャーだ」と思えるものになっていきました。
室伏:表面的な文言ではなく、概念から丁寧にすり合わせていったことで、目指す方向が決まってからは一気に進みました。
社員の声をもとに、ワクワクする未来予想図を作成
――デザインなどのアウトプットは、どのような点にこだわりましたか?
内山:手元に置けること、そして手にしたときの感触も大事にしたかったので、早い段階から紙の冊子にすることは決めていました。表紙をキャンディの形に切り抜くのは、上野さんのアイデアでしたね。

上野菜美子(以下、上野):そうですね。デジタルコミュニケーションが主流の時代に、せっかく冊子をつくるなら、「物としての魅力」にこだわるべきだと考えたんです。それで手作業で細やかな加工ができる印刷会社をいくつか回り、最終的には美術本も手がける藤原印刷さんにお願いすることにしました。
表紙を開いてすぐのページは当初、中計の内容やカンロが取り組むSDGsをビジュアル化する案を考えていたのですが、「もっと夢がある、みんながワクワクするようなものがいい」とのご要望を受けて、思いきって趣向を変更しています。最終的に、「創業200年を迎えるころに、カンロはどんな会社になっているか?」というテーマで社員の方々にアンケートを実施して、その結果をもとに「カンロのSweetな未来」というイラストを制作しました。
「火星に支社ができる」といったSF的な想像を広げたものから、カンロは「小さな幸せをひとつぶにして届ける会社である」といった不変のあり方まで、社員の自由な発想や想いがイラストとして形になりました。

また、カンロのみなさんから感じる朗らかでやさしい雰囲気を表現するため、自然な表情を撮るのが得意なフォトグラファーをアサインするなど、スタッフ選定にもこだわりました。
西原:紙面に登場するのはすべて社員のみなさんで、役員の写真は1枚もありません。その辺りも含めて、ボトムアップを意識してカルチャーブックに反映させていきました。

――完成後の反応や効果はいかがでしょう。
室伏:全国から社員が集まる2025年末の事業計画発表会で配布した際に、パラパラとページをめくりながら「かわいいね」「自分たちの『らしさ』が目に見える形になっていて面白い!」と会話が生まれていました。それを見たときは、本当にうれしかったですね。その場にいた社外取締役からも「これは素晴らしい!」と、お褒めの言葉をいただきました。
最初の反応はかなり良いので、これから現場で判断に迷った際の指針となるよう、しっかりと内容を浸透させていきたいです。
西ヶ谷:採用を担当する人事企画チームでは、新入社員やキャリア入社のみなさんがカンロのカルチャーを理解して早く仲間になってもらうためのツールとして、どう活用するかを考えているところです。まずはカンロのファンになってもらい、次にカルチャーをつくっていく一員として活躍する段階でも、このカルチャーブックを活用してほしいと思っています。
内山:いま企業広告の制作を進めているのですが、制作会社の担当者がこのカルチャーブックを隅々まで何度も読み込んでくれたそうです。インナー向けに作ったものが社外コミュニケーションにも役立つことを、つい先日、目の当たりにしました。
制作過程で「いい感じで揉める」ことができた
――カルチャーブック制作のサポートを通して、実感したことは?
上野:長期間にわたってご一緒できたことで、カンロのコーポレートブランドに対する理解がかなり深まりました。私はコーポレートCMの制作や中計のアートディレクションに関わってきましたし、カルチャーブックの制作と並行して、「コーポレートブランドガイドライン」の策定にも携わっていました。そうした土台があったからこそ、カルチャーブックを良いものにできたのだと思います。
これまでアートディレクターの立場でさまざまなクライアントと仕事をしてきましたが、カンロのみなさんは、腑に落ちないところがあれば妥協せず、とことん議論される印象があります。そうしたプロセスも含めて、このプロジェクトはとても意義深いものでした。
西原:完成したあとにプロジェクトを振りかえったときに、西ヶ谷さんがおっしゃった「いい感じで揉めることができた」という言葉が強く印象に残っています。まさに、それこそがこのプロジェクトを通じて得られた、何物にも代えがたい財産であり、創発的な組織の更なる進化につながっていくと思います。制作過程でも、完成したあとも、カルチャーブックから会話が生まれていることを外部パートナーとして心からうれしく思います。

――最後に、プロジェクトの感想を聞かせてください。
内山:インフォバーンさんとは、CXの基盤整備や広告制作、そして広告のPDCAを回していくサイクルなども一緒に作り上げてきました。コーポレートCM制作、中計のアートディレクションに加えて、カルチャーブックまで伴走支援してもらった今は、まるで社内の人と話しているような安心感があります。同じ目線を持つ人たちにアウトプットの部分まで一気通貫でお願いできること、それが大きな魅力だとあらためて感じました。
西ヶ谷:私は今回初めてインフォバーンさんとご一緒しましたが、マーケティング目線の意見やアドバイスを聞くことができて、非常によい経験となりました。ビジュアルや言葉を使って人の心にどう響かせるかを考えたことは、参加した人事部のメンバー全員にとっても勉強になりましたし、人事の仕事にもプラスの影響が出るのではないかと期待しています。

カンロの事例から学ぶ、インナーブランディングの本質
今回のプロジェクトの具体的なプロセスや、自社への応用方法に興味をお持ちの方は、ぜひこれまでの知見をまとめた以下のコンテンツをご活用ください。
1. 【ウェビナー】「物語」の力で組織を動かす。インターナルブランディングに効くその手法とは?(アーカイブ配信)
経営の言葉を社員一人ひとりの文脈とつなげるためには、「物語」が必要です。インナーブランディングを成功させるアプローチのヒントを、カンロの事例を中心に紐解きます。
2. 【お役立ち資料】ブランディング実践ガイド
社員が自律的に動く組織をつくるためのステップとは? インナーブランディングの導入の必要性や、カルチャー浸透のステップをサービス資料にまとめました。
3. 【詳細記事】「カンロらしさ」を言語化し、社員の行動のよりどころとなるカルチャーブックを制作
本プロジェクトの全体像を詳細なプロセスから紐解きます。現場の課題から構想の背景、さらにカルチャーブック制作のアプローチを詳しくご紹介しています。
お問い合わせ・資料ダウンロード
デザインとコンテンツの力で、
貴社の課題解決
に伴走します
経験豊富な専門チームが、貴社の課題に寄り添い解決まで伴走します。具体的なご相談や詳しい資料をご希望の方はこちらから。



